第5話

結局、委員会を適当に教室にいた大人しい男子に押し付けてきた俺は、カラオケへ向かう友人等の群れの先頭を歩いていたのだが。





「……あ、やべ」



「真也、どうかした?」



「や、教室に携帯忘れたわ」



「ぎゃはははは!マジかよ!」



「最悪。ちょっと取ってくるわ」



そう言って、俺は来た道を駆け戻る。

幸いにも、携帯が手元にない事に気がついたのは校門を出てから少し歩いた地点での事。



走って戻れば、そう時間もかからないだろう。



そう、油断していたのがいけなかった。





ガタガタと大きな音を立てて、乱暴に自分の校内用スリッパを靴箱から取り出す。



さすがに校内で全力疾走なんてダサいので、パタパタと小走りで自分の教室へ向かった。




本当に最近、ツイてない。




とくに思い当たる事もないくせに、そんなことを漠然と考えて、何がだよ、と心のなかで自分にツッコミを入れる。



面白くも何ともない。




俺は満たされている。友達もいるし、成績に問題はないし、きっとその気になれば彼女だってすぐに作れる。



事実、2年に進級してからのこの数ヶ月間で、何人かに告白された。それは全て断ったけど。



不満に思うことなんか、何もない。



なのに何故、ツイてない、なんて考えたのか、俺は自分の思考が分からなかった。

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