第2話「お父さん、幸せにします!」
ヒーロー育成ゲーム『GIFTLESS』
主人公は、舞台となる国『テトラリア』を守るヒーローを統率する司令官となって、様々な能力を持ったヒーローたちと心を通わせながら育成し、『世界を壊す混沌』を退治するという王道の育成ゲームだ。
この世界のヒーローはみんな『GIFT』という特殊能力を持っている。
炎や水を操ったり、体を強化したり、空を飛べたり。
司令官である主人公は、気に入ったヒーローを選んで育成しつつ、ストーリーを攻略していくのだが、実は一番最初に担当するヒーローが物語の鍵を握っていることがわかる。
なんと、彼は『GIFT』を持っていないのだ。
卓越した身体能力と、技術力。
発明家であり、太陽のヒーロー。
それが「ソーラーアローズ」、イヅル・イグニス。
ゲームで一番最初に、司令官が担当するヒーローだ。
ゲームタイトルの『GIFTLESS』は、彼を指す言葉であり、人気の理由もそこにある。
育成ゲームのキャラクターにしては珍しく、子持ちのシングルファザー。
妻を早くに亡くして、その面影のある娘を溺愛していて、司令官に対してもやわらかい物腰で話しかける明るいけど少し影のあるおじさまキャラ。
嫌いな人いないこんなの。
さらにボイスも最高。運営はそこにお金を使ったに違いない。
転生前の私、”晴”はお父さん子だったこともあり「ソーラーアローズ」にのめり込んだ。
司令官として、彼の能力を伸ばし、サポートヒーローもたくさん育成した。アルバイトのお金も課金に使った。そして、お父さんにちょっと怒られた。
『GIFTLESS』だった「ソーラーアローズ」は、ゲーム終盤で『GIFT』を発現し、ラスボスの「黒い月の魔女」を倒す。
その時のボイスとムービーで何時間泣いたかわからない。
彼が倒したラスボス「黒い月の魔女」は、溺愛していた娘”ハル”の変わり果てた姿だったからだ。
……そう、私だ。
このラスボス戦は、物議を醸した。
”晴”も、娘を手にかけなければいけない父の気持ちを想像して、しばらく落ち込んだくらいだ。
なぜ、娘がラスボスになってしまうのかというと、これもなかなかの展開による。
「ソーラーアローズ」の一人娘”ハル・イグニス”は、物語が佳境を迎えた時、悪役である「黒い月の騎士」に襲撃され、命を落とす。
娘を守れなかった父親は、その亡骸を抱えて慟哭するのだが、そのタイミングで『GIFT』を発現する。
この事件は、「ソーラーアローズ」が『GIFT』を発現する引き金になっているのだ。
これだけでもだいぶひどいのだが、ハルの亡骸は『世界を壊す混沌』に引き込まれ、その強大な力を吸い込んで、ラスボス「黒い月の魔女」として復活する。
父が見ることの叶わなかった、成長した大人の女性の姿で。
「黒い月の魔女」と対峙した「ソーラーアローズ」の表情が忘れられない。
たぶん転生前の私も、同じ顔をしていたと思う。
なんなら「なんてヒドイことするの……」と口をついて出たくらいだ。
今、私は”ハル・イグニス”に転生している。
つまり、私はこのままだと「黒い月の騎士」に殺されて、「黒い月の魔女」になって、大好きなお父さんに倒されてしまう運命なのだ。
……絶対にイヤだ。
転生前、”晴”のお父さんには、娘として何もしてあげられなかった。
お父さんを守れなかったし、成人式も、いつか来るかもしれない結婚式も、孫の顔も見せてあげられなかった。
今度は、必ずお父さんを守る。
”ハル・イグニス”として、最推しを世界一幸せなお父さんにするんだ。
まずは、ストーリーがどこまで進んでいるか確認しないと。
それから、立体になったイヅルさんを見たい!
きっとこの時間はラボに篭っているはず。
私は、意気揚々と家の外に飛び出した。
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