GIFTLESSーヒーローの娘はラスボスでしたー
草野冴月
第1話「お父さん、ハルです!」
——その日、私は思い出した。
私は、お父さんに殺される。
そういう運命になっている、ということを。
***
「ごめんな、ハル」
太陽のヒーロー、ソーラーアローズが呻くような声を絞り出す。
燃えるような髪を後ろで一つに束ね、真っ赤なマントを翻して「黒い月の魔女」に炎の剣を突き立てるその姿は、誰が見ても立派なヒーローだった。
燃え盛る剣で貫かれた「黒い月の魔女」の胸には、ぽっかりと穴が空き、漆黒のドレスは焦げてパチパチと音を立てている。虚ろな目は、もう光を宿すことはないだろう。
世界は、守られたのだ。
この世界を夜の闇に染める力を持つラスボス「黒い月の魔女」を倒したヒーロー「ソーラーアローズ」は、その亡骸を抱きしめて、大きな声で、泣いた。
***
ちょ……ちょっと待ってほしい。
私は、突然頭の中に流れ込んできた映像に混乱した。
(今のは、何……?)
あの真っ赤なマントは、間違いなくこの街のヒーロー「ソーラーアローズ」で、私のお父さんだ。
……ん?お父さん?
「ソーラーアローズ」が私のお父さん?
何を言っているのだ?私は。
私は、日本に住む平凡な女子大生だったはず。お母さんが早くに亡くなって、お父さんが男手一つで育ててくれた。大好きだったお父さん。警察官で、誰よりも正義感が強くて優しかった。
だから……
優しかったから、恨みを買ったんだと思う。
お父さんから「昔、お父さんが捕まえた人が、刑務所から出所した後に会いに来たいと言ってくれたんだ」と聞いた時、私は会うのはやめた方がいいと止めた。だって、絶対に危ないから。
でも、お父さんは「きっと更生して、挨拶に来てくれるんだよ。」と彼を信じて疑わなかった。
そうして、刺されてしまった。
あの日のことは、よく覚えている。
玄関で大きな音がして、驚いてドアを開けるとお父さんが血まみれで倒れていた。
二人で選んだラグマットも、誕生日に買ってもらったお気に入りのスニーカーも真っ赤で、もう何をしても間に合わないのだとわかってしまった。
呆然と立ち尽くすしかない私を見て、お父さんを刺した男は楽しそうに笑った。そして、私に向かって、ゆっくりとナイフを振り下ろした。
……いや、これは「前の私」だ。
そう、日本に暮らしていた女子大生の私、”天宮晴”の記憶。
「今の私」は、ハルだけど晴じゃない。
太陽のヒーロー”ソーラーアローズ”の正体、イヅル・イグニスの一人娘、”ハル・イグニス”。
それが今の私の名前。”晴”は、きっとあの時死んだのだ。
「……ハル・イグニスぅ?!」
思ったより大きな声が出て、慌てて口を塞いだ。
ゆっくりと深呼吸をして、記憶の整理をする。
”晴”と”ハル”の記憶が混ざってごちゃごちゃしていたからすぐには気が付かなかったけれど、やっぱり間違いない。ソーラーアローズ、私の最推し。
ここは、”晴”がのめり込んでいたヒーロー育成ゲーム『GIFTLESS』の世界だ。
そして、私は思い出した。
——私はお父さんに、「ソーラーアローズ」に殺される。
そういう運命になっている、ということを。
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