第3話

私の知っている琉生はもういない。


今の琉生は最愛の女しか見えていない………ただの男だ。私の知らない琉生なんだ。


「………ッ…………。」


爆音が私の嗚咽を掻き消していく。悠人の背中は大きくて温かかった。


「私の知っている琉生君はいないんだ。」


小さな呟きが夜の闇に飲み込まれていった。信号待ちをすれば、悠人の手が私の頭をポンポンと優しく叩く。


徐々に落ち着く心に、悠人に掴まる手を弛めていった。


「悠人、ありがとう。」


聞こえたのか聞こえていないのか分からない。だけど、信号待ちに小さく囁いた。


暫く走れば、明かりのない暗闇の世界に入っていった。怖さに、悠人に掴まる手に力が入っていく。


「着いたぞ。」


バイクが止まり、私は悠人から身体を離した。周りを見渡せば、真っ暗な闇の世界だった。


微かに聞こえてくる音に私はバイクから降りた。


「海?」


「ああ。」


海風が私の長い髪を靡かせる。音だけが聞こえてくる夜の海に近付いていく。


背後から聞こえてくる煙草に火を点ける音だけが静かな海に響いた。


「向日葵、大丈夫か?」


春人の優しい声に上を見上げた。夜空には、暗闇だからこそ見える星が輝いていた。


「私の知っている琉生君はもういない。」


私の囁きだけが静かな海に響いた。3人の煙草の香りが今の琉生を思い出す。


「私を守ってくれた琉生君はもういない。」


溢れる涙が頬を伝い落ちていく。夜空に輝く星が涙でユラユラと揺らめいている。


「私の王子様はいなくなった。琉生君は鈴音さんのモノなんだと知らされた。」


黙って私の話を聞いている悠人達。そんな彼等の優しさが更に涙を加速させていく。


「失恋って辛いね。」


私の囁きだけが静かな海に飲み込まれていった。


「向日葵が一番始めだな。」


春人の声に、夜空から春人に視線を向けた。


「何が?」


「失恋。」


「なっ、春人、あんたデリカシーがない。」


春人を睨めば、クスクスと笑う春人がいた。


「だって俺らは恋なんてした事ないから。」


「ないの?」


「ない。」


春人と一がハモった。

悠人をチラリと見れば………


「ないか………。」


「チッ………。」


悠人の舌打ちが漏れた。春人が私の目の前に立った。


「向日葵、友達っていいぞ。恋なんてしなくても、友達がいれば楽しい。」


「友達………。」


「だから俺達が向日葵のダチになってやる。今までは琉生さん、新さんが傍にいたんだろ?これからは俺達が一緒にいてやる。」


「春人………。」


春人の隣に一が立ち、私を見下ろしてきた。


「まあ、女と出掛けたい時だけは遠慮しろよ?」


「…………彼女?」


「違う。男の事情だ。」


クスクスと笑う一に溜め息を吐いた。彼女じゃない女と出掛けるって………。


悠人が煙草を足で揉み消し、私に近付いてきた。漆黒の髪が風に靡いている。


「向日葵、違う世界も見ろよ。琉生さん、新さんだけじゃなく、新しい世界も見ろよ。」


「悠人。」


「俺達が一緒にいて楽しませてやる。ただし、我が儘は受け付けないからな。」


「ふふっ、我が儘って。」


「琉生さんや新さんみたいに、我が儘は受け付けないからな。」


悠人の手が私の頬に伝う涙を乱暴に拭っていく。


「向日葵、俺達と一緒にいたいか?」


「………ふふっ、うん。」


「ただし我が儘は受け付けないからな。」


「うん。悠人、春人、一、宜しくね。」


にっこりと微笑めば、頭をくしゃくしゃと撫で回された。私は悠人を睨めば、口角を上げて私を見下ろしていた。

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