第2話

「確かに、向日葵の親父から忠告された。絶対に手を出すな!って。だから女が苦手な俺が一緒にいる。」


「そう。」


「別に嫌々俺達は向日葵と一緒にいるんじゃないから。それだけは覚えておけ。」


何処までも俺様な悠人に口角を上げた。


「悠人、春人、一、ありがとう。」


悠人が歩きだせば、私達は悠人の後に続いて歩きだした。いつもの部屋には、すでに琉生、鈴音、新がソファーに腰掛けていた。


「向日葵ちゃん。」


「こんにちは、鈴音さん。」


私は兄の隣に腰掛けて、琉生と鈴音に視線を向けた。相変わらず、琉生は鈴音の肩を抱き寄せている。


「ふ~ん。二人はラブラブな感じ?」


「…………ごめん、ちょっと琉生。」


私に気を使って、琉生から離れようとする鈴音さんを離そうとしない琉生に笑いが漏れる。


「琉生君、どんだけ好きなのよ。」


「教えない。ほら、向日葵、何か頼め。」


琉生のマイペースな行動に鈴音が頭を下げている。そんな鈴音だからか、私は嫌いになれない。


「鈴音さん、琉生君と仲良くね。」


「えっ?」


「だって琉生君、今、凄く幸せそうだから。」


ずっとずっと見てきた琉生の表情が今が一番幸せそうに見える。ずっと見てきたから分かる。



『向日葵、大丈夫か?』


『向日葵、これ食べるか?』



琉生はいつも優しかった。けど、今の琉生の表情は私に向けていた表情とは違う。


嬉しそうな瞳を鈴音に向けて、琉生の手が鈴音の髪を撫ででいる。


「鈴音さん、今度、ショッピングでも………。」


「ダメだ。」


琉生の低い声が聞こえてきた。私をじっと見据える瞳は、さっきまで鈴音に向けられていた瞳とは違う。


「繁華街は危険だ。絶対に二人では出掛けるな。」


「危険って………。」


「鈴音に何かあれば、向日葵、お前でも許さないからな。」


琉生の低い声が私に向けられる。鈴音が絡むと琉生は私に冷たい声、冷たい瞳を平気で向けてくる。


「琉生。」


隣に座る兄の声に、私の固まった体から力が抜けていくのが分かった。


「向日葵、二人では出掛けるな。これは絶対だ。」


琉生の視線が私から逸らされ、鈴音の髪に顔を埋めていく。私の心が凍ったように固まっていた。


私はそっと目を閉じて、ソファーに凭れ掛かった。



琉生君にとっての鈴音さんは――――


   失うわけにはいかない最愛の女なんだ



小さい頃から私を守ってくれた琉生はもういない。


目の前に座る琉生は私の知らない琉生なんだ。


泣きそうな心をグッと堪える。


「向日葵ちゃん?」


琉生の最愛の女の心配そうな声。私の胸が苦しくなっていくのが分かる。


「向日葵、行くぞ。」


「えっ?」


悠人のいつものトーンの声に目を開き、悠人に視線を向けた。漆黒の瞳がじっと私を見据えている。


「向日葵、来い。ちょっと出るぞ。」


「ああ、うん。」


悠人が扉を開けて部屋を出ていく。その後を私は追っていった。クラブ『ウエスト』の扉を開けて、外にズンズンと歩いていく。


悠人がバイクの前で止まり顎で促す。私はバイクの後ろに跨がった。無理矢理被せられたヘルメットに、悠人の優しさを感じる。


「向日葵、掴まれ。」


いつものように肩に掴まれば、その手を取られ、悠人の腰に回された。


「しっかり掴まれ。飛ばすぞ。」


初めて掴まる悠人の背中は凄く温かかった。悠人のバイクが爆音を立てる。背後から聞こえてくる爆音に、春人と一が一緒にいる事に気付いた。


「行くぞ。」


悠人の合図に、バイクが勢いよく飛び出していった。悠人の温かい背中に寄り添うように、ぎゅっと腕に力を籠めた。


自然と流れる涙と嗚咽に、悠人は気付かない振りをしてくれている。

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