第3話
「椎崎さんが気になる?でも彼女は男なら誰でも相手にする女よ?」
女の声に俺は振り返り、嫉妬で歪む顔を見据えた。
「椎崎鈴音は男なら誰でも相手にする女よ。そんな女が気になるの?」
「それはお前だろ。ウエストの幹部なら誰でも相手にする。そんな女だろ。」
「違う。私は琉生さんだから………。」
「別に新でも良かったんだろ?俺が相手にしなければ、新でも良かったんだろ?違うか?」
女に冷めた瞳を向けた。
「二度と顔を見せるな。」
「椎崎鈴音に乗り換える?そんな事をしたら、あの女を………。」
「お前、俺の女のつもりか?乗り換える前に、俺の女でも何でもねぇだろ?名前も知らない女から乗り換えたとしても、お前にとやかく言われる筋合いはない。」
悔しさに歪む顔に口角を上げた。
「勘違いするな。ただの遊び女、それが分かっていて俺に近付いて来たんだろ?変な嫉妬は無駄だ。」
「酷い。琉生さんは気に入ってくれてると。」
俺はクスリと笑えば、更に唇を噛み締める女を見据えた。
「気に入ってる?ただの遊びだ。二度と顔を見せるな。それと………。」
「…………。」
「別に、さっきの女を気に入った訳じゃない。」
俺は女に背を向けて歩きだした。俺の名前を呼ぶ女を無視して、来た道を戻った。
案の定、いつもの部屋に入れば、目を見開き驚く奴等の顔があった。
「早いな。」
「ああ。あの女が気持ち悪くなって置いてきた。」
「琉生、体調でも悪いのか?帰れよ。」
「別に平気だ。」
俺はソファーに凭れ目を閉じた。俺に向けられた軽蔑の瞳が俺の心を凍らせていく。
自然と寄る眉間の皺に、周りからは声を掛けられる。
「椎崎鈴音……………。」
俺の小さな囁きが静かな部屋に漏れた。他の奴等の視線が俺に突き刺さるのを感じた。
「誰です?」
「さっきの女の知り合いだ。」
「調べますか?」
「ああ。」
自然と答えた返事に驚きの声が上がった。閉じていた目を開き、新を見れば、鋭い視線を俺に向けている。
「琉生、女を作る事は俺達にとって足枷になる。」
新の低い声が静かな部屋を支配していく。俺は真っ直ぐに新を見つめた。
「俺達の弱点になるって事が分かってるよな?」
「ああ。ただの興味だ。」
「ならいい。女は俺達の弱点になる事は肝に命じておけよ。」
「分かってる。」
俺は再び目を閉じた。頭を支配するのは椎崎鈴音の瞳だ。
『男なら誰でも相手にする女よ。』
俺にはそんな女には見えなかった。俺の容姿、ウエスト幹部の地位に靡かない女だった。
それとも……ウエストを知らない?
「あり得るな。」
俺達とは違う遊んでない女って感じだった。クラブになんか来たこともないだろう。
また逢えるのかどうかも分からない女の事ばかりが俺の頭の中を支配していく。
「椎崎鈴音………。」
小さな囁きに、新の鋭い視線が向けられていたなんて、目を閉じていた俺には分からなかった。
数日後、俺は椎崎鈴音の通う高校の校門に凭れていた。俺を知ってる奴等が騒ぎ始めるが、俺は無視して椎崎鈴音が通るのを待っていた。
「嘘、あれって花崎さんでしょ?」
「何で、うちの高校にいるの?確か西高だよね?」
「誰待ち?」
ヒソヒソと聞こえてくる声にも、聞こえない振りを通した。そこに椎崎鈴音が俺の目に入ってきた。
久し振りに見る彼女は、相変わらず、一人で歩いていた。騒ぎにも興味を示す事なく、俺の前を通り過ぎようとしていた。
「椎崎鈴音。」
俺の低い声が彼女に届いたのか、大きな瞳が俺に向けられる。俺と視線が交わると、すぐに逸らされた視線に俺の胸が痛んだ。
「椎崎鈴音。」
もう一度、彼女の名前を呼んだが、振り返る事なく、俺を通り過ぎようとしている。俺は彼女に駆け寄り、細い腕を掴んだ。
「何か?彼女なら知らないけど?」
「…………椎崎鈴音に用がある。」
俺に向けられるのは、あの日から変わらない軽蔑の瞳だった。
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