第1章 彼の隣

初恋

第1話

私の両親は弁護士だ。そして度々受ける依頼は………。


「親父いるか?」


リビングの扉を開けて入ってきた強面の男に視線を向けた。父がソファーから立ち上がり、近付いていく。


「どうした?」


「はい。電話で組の奴が怪我をしたらしく。親父に来てもらいたいと。」


「分かった。病院か?」


「はい。今、向かっているそうです。」


「喧嘩か?」


「詳しくは分かりません。」


「分かった、車を回せ。」


父が私に視線を向けた。


「向日葵、出掛けてくる。」


「いってらっしゃい。」


私は父ににっこり微笑んだ。父は強面の男とリビングから出ていった。


私はソファーに凭れ、溜め息を吐いた。


「またか………。」


私の小さな呟きが漏れた。私は誰もいないリビングから自分の部屋に戻った。


私の家は裏の人間の顧問弁護士を引き受けている。そのせいか、夜中に呼び出されて父が駆け付ける事はよくある事だ。


「向日葵ちゃんとは遊ばない。」


「向日葵ちゃん家、怖いんでしょ?ママが一緒に遊んだらダメって言うの。」


「おい、お前の家、悪い奴が集まってんだろ。俺に近寄るな。」


私はベッドに寝転ぶと昔を思い出した。家の事で友達なんていなかった。


それでも私は大丈夫だった。兄達がいつも一緒に遊んでくれていたから。


「向日葵、行くぞ。」


「向日葵、今日も可愛いな。」


「向日葵、何か食べるか?」


「お前ら、俺の妹に手は出すなよ。」


兄、如月新(きさらぎ あらた)と花崎琉生(はなさき るい)が一緒にいてくれた。


琉生はお隣さんで親同士が仲良く小さな頃から一緒に育ってきた。花崎グループと言えば、有名な食品会社で、琉生はその息子だ。


「お前ら、向日葵に何をしてる?」


私を囲む女子生徒達の顔が青くなっていく。私を背中に隠し、黒いオーラを纏った琉生が私の前に立ち塞がる。


「向日葵に何かしてみろ。俺らが黙ってないからな。」


地を這うような低い声が聞こえてくる。私は琉生の大きな背中を見つめた。


いつも私を守ってくれる大きな背中だ。でも、その背中を抱き締める事は許されない。


「向日葵、行くぞ。」


琉生が私の前を歩いていく。琉生の手が私の手を繋ぐことはないし、琉生の手が私を抱き締める事もない。


「向日葵?」


琉生の茶色の瞳が私を見下ろす。私は琉生の背中を追い掛けていく。


「何でもない。」


すぐに外される視線。私は琉生の背中を追い掛け続ける。私は親友の妹で、女には見てもらえない。


「新が待ってる。」


いつも助けてくれるけど、それは兄の妹だから。私自身を見てくれてはいない。


『向日葵は俺達のお姫様だな。』


『ああ、俺達で守ってやる。』


『そうそう。向日葵の兄貴は一人じゃないからな?俺にとっても妹なんだからな。』


『向日葵、良かったな?兄貴が増えたな。』


幼馴染みの兄達は私を妹だと言った。


『向日葵に何をしてる?』


いつも守ってくれる背中に、私はいつの間にか恋をしていた。そして、その大きな背中を追い掛け続けた。


いつも3人で過ごしてきた。二人が私を守ってくれていたから、私は強くなれない。


『向日葵、新の妹なんだから、もっと強くなれ。』


琉生の言葉は残酷だ。甘やかして過ごしてきた私が強くなるなんて無理だからだ。


幼馴染みの私達はいつも一緒にいた。友達なんていなかったけど、彼等がいつも一緒にいてくれた。


私はいつまでも一緒にいられると思っていた。けど、彼等は私の手の届かない世界にのめり込んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る