第44話
声が裏返ってしまったけれど、案の定富井くんはそれに触れるでもなく気にするでもなく、話し続ける。
そういうところは、助かる。
「俺思うんだけどね、百合ちゃんの弟が【竹下】好きならさ、おそらく原作もばっちり読んでるじゃん?」
「う、うん、そうだろうね」
「で、原作読んでない百合ちゃんがチェックしても、百合ちゃんの弟と感じ方が違わないかなーって」
それは私もそう思う。
富井くん、案外そういうことばっさり言うタイプなんだ。
「ね……」
「まあ俺としては原作に劣る劣らないは別として、【竹下】が原作ならはずれなわけないと思うけどね!」
どんだけ人気なんだ竹下。
長い列の後ろの方で二人並んで、ぼんやり富井くんの話を聞く。
聞きながら、勿論頭の中で富井くんの言葉を頭に入れてはいるんだけど、やっぱり頭の隅っこの方では、斉藤さんの「可愛いですね」がいまだにぐるぐるまわっていた。
免疫ができたから斉藤さんのだけドキドキしたんだ。
私は、〝斉藤さんだから〟〝斉藤さんにこそそう言われたかった〟という二つの考えに、精一杯気付かないふりをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます