第29話

「まあ富井くんもオッケーされた嬉しさでそこまで気回らなかったのかも」

「そうかあ?でもまあこれはもう断れねえな」



ホーリーは「諦めろ」というような口ぶりで、私のスマホを返してきた。



「はあ……」

「百合ちゃん!」



返してもらいながら思わずため息が出た、そのとき。

さっそく富井くんの声が教室の外から聞こえた。


振り向けば、今日も、いや今日は一層楽しそうな笑顔で、私に手を振っている。



「富井くん……。おはよ」

「おはよう!」



そのまま教室に入ってきて、私の席までやって来た。



「もう俺今から日曜が楽しみでさー、待ちきれないなあ!わくわくするね!」

「う、うん」



富井くんはこれでもかという程喜んでいる。

ちっちとホーリーからの視線がチクチクと痛い。



「でも承諾してくれたってことはさ、百合ちゃんも【竹下】気になってたの?」



【竹下は今日もゆく】は【竹下】と縮めて言うのか……。それすら知らない。



「いやあんまり知らないんだけど、弟が」

「ああ弟が【竹下】好きなんだ!?」

「う、うん」

「あ、だから弟のためにチェック?やっぱり優しいなあ百合ちゃんは!」

「あはは……」



全然優しくない。

私が隆二のためにそんなこと自主的にするなんて、死んでもあり得ない。



「でもやっぱり俺は映画が見れるってことより、百合ちゃんと二人で出掛けられるってことが何より嬉しいよ!」

「富井くん……」

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