黄泉平坂サブch【三十年越しの盆送り】前編

【三十年越しの盆送り】202✕年8月23日配信


※以下、動画の一部書き起こし。

 暗転した画面に【202✕年5月某日】とテロップが表示されている。それが次第にフェードアウトしていくと、画面には■■■村を探索するカズヤとタクミの姿(【死者の棲む村】の切り抜き)が次々と映される。


『うわー、ひどいな』

『何かちょっと……腐敗臭みたいのもするね』

 *****

『これ床腐ってるから、入るのはやめといた方が良いな』

『ですね……うわっ、ほんとに……臭いな……何の臭いだろう……』

 *****

『タクミさん……何か、めちゃくちゃ気配感じません?』

『うん、うん。すごいよね。ヤバい。何か……囲まれてる?』


 再び画面が暗転し、フェードインとフェードアウトをゆっくりと繰り返しながらテロップが流れる。【我々がしきりに気にしていた『臭い』】【そして『気配』】【それはこの村に、確かに幽霊がいるという証拠でもあった】


【帰宅後、撮影した素材を確認していると】【撮影時には気がつかなかった】【我々を見つめる】【無数の顔】


 画面には村内を探索する二人の姿が静止画で次々と映し出される。表示されたテロップの通り、画像の至る所に人の顔のようなものが見える。


 続いて画面にはDMのスクリーンショットが表示され、それをバックにカズヤのナレーションが流れる。


『配信後、我々のもとに一通のDMが届いた』


『はじめまして。先日の『死者の棲む村』めちゃくちゃ怖かったです。15:21あたりに映っている顔がうちの祖父(すでに他界)に似ており、そのことを母に話すと「もしかしたらその村は祖父母の生まれ育った村じゃないか」というのです。祖母は存命で■■■村が廃村になった後は山を下りて母の姉夫婦と■■市内に住んでいます。

もし■■■村の話を詳しくお聞きになりたいのであれば、祖母にお願いすることは可能かと思います。もしご興味ありましたらご連絡下さい』


 映像が切り替わり、画面中央にはテーブルに置かれたスマートフォン。それをバックにインタビュー音声が流れる。


【7月某日】

『あそこはね、うちのじいさんくらいの頃に東京の方から移住したもんで出来た村なんです』

『祠?』『ああ、はいはい』『商売繁盛のね、神様を祀ってたんですよ。お稲荷さん』

『ずっと気がかりだったことがあるんですよ。村ではね、毎年お盆の時期にちょっとしたお祭りをやっていて。小さい村なんで本当にちょっとしたものなんですけど。私達、あの村から越したのはお盆の時期だったんです』『その年はお祭りをやらなかったんです。だから、帰っていらしたご先祖様がね、こちらに来たままになってるんじゃないかってね……気になってたんです』

『お祭りっていっても、大したものじゃないんですよ。ちょっと皆んなで集まってお酒を飲んで。それでその夜、寝る前にね、精霊馬に手を合わせてお祈りするんですよ。呪文を唱えながら』


 画面が暗転し、カズヤのナレーションに切り替わる。

『後日、我々のもとにその呪文を録音した音声が届いた』


 暗転した画面にテロップが流れる。【注意】【この呪文にどんな意味があるのか】【どういった由来があるのか】【調べてみたのですが全くわかりませんでした】【悪いものではないかも知れませんが】【念の為、心配な方は視聴を避けて下さい】【視聴した結果】【なんらかの現象が起きたとしても】【自己責任でお願いします】


 3、2、1と画面上でカウントダウンが行われた後、スマートフォンで録音したらしい音声、老婆が呪文を唱える声が流れ始める。


『ずんばら はばりゃあ ふん ふん』

『ずんばら はばりゃあ ふん ふん』

 呪文を繰り返しながら、音声はフェードアウトしていく。


 クラシック音楽をバックにオープニングムービーが流れ始める。そしてムービーの最後にテロップが流れる。


【黄泉平坂サブch】【三十年越しの盆送り】


 画面が切り替わり、カズヤとタクミの二人が映される。二人はいつもの部屋(カズヤの家)にいる。


「はい、ヨモツヒラサカchカズヤと」

「タクミです」

「と、いうことでね。オープニング、見ていただきましたが」

「はい」

「先月ね、僕らが、メインチャンネルの方で配信しました【死者の棲む村】。えー、かなり反響がありまして。動画のコメントもね、たくさんいただいたのですが、いくつか興味深いものがありまして」

「はいはい」

「それがね、あの【死者の棲む村】の動画ではね、けっこうその、人の顔がねたくさん見えるという」

「俺は35カ所見つけました」

「何か増えてない? いやでもね、ほんと、シミュラクラ現象っぽいのも含めると本当にね、本当にたくさんの顔が見えると。それでコメントの中にね、興味深いのが『自分の祖父母に似た顔がある』っていうコメントが複数あって」

「DMもね、来たんだよね」

「はい。まあいくつかはね、その、ジョークというか、本当じゃないと思うんだけど。その中でも、先ほど紹介したDMは、実際にお祖母様があの村出身ということで」

「お祖父さんも、ってことだよね?」

「そのようですね。それで、あの村から住民が出ていったのって、お盆の時期だったらしいんですけど。あの村の風習で、お盆の最後にはささやかなお祭り、お祭りっていってもね、まあ小さな村だから、食事会みたいな感じなのかな。みんなで集まって、最後に精霊馬──あの茄子と胡瓜で作った馬だね──あれに向かって呪文を唱えて、ご先祖様を送るのが習わしらしいんだけど。お盆の時期に引っ越しちゃったから、それが出来なかったのがお祖母様の心残りだそうで」

「はい」

「だから今回は、僕ら再びあの村へ行って、三十年越しの盆送りをしてこようと」

「お祖母ちゃんのね、心残りを、晴らしてあげようと」

「はい。今回はハートフル回となっております」

「でもさ、こう、我々心霊チャンネルをやっている者としてはさ。その、せっかくの心霊スポットからねえ、幽霊を送り出しちゃうわけでしょ? それってどうなの?」

「まあ今回ね、我々が無事に盆送りの儀式をやり遂げたら、この世から心霊スポットがひとつ消えるわけですからね」

「そう。いいの? カズくん的には?」

「ハートフル回なんで」

「ハート……良いのね?」

「いや、そりゃね、僕もタクミさんくらい冷血な人間だったらそう思ったと思います。実際ね、たしかにどうかなと思いました」

「ちょいちょい」

「でもね、あんな話聞いちゃって『心霊スポットなくなるの困るのでお断りします』なんて言えますか? いいや言えない」

「反語だ」

「我々はオカルトYouTuberの良心としてね、活動してますから」

「初耳なんだけど。まあまあまあ、うん、でもね、わかります。行くしかないよね」

「はい。ということでね、我々、これから行ってまいりますので」

「はい」

「それでは、行ってきます」

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