インタビュー
(以下、音声データの書き起こし)
「あっ、えーと、音声は大丈夫ですかね」
──はい、大丈夫です。おばあちゃんは聞こえる?
──はいはい、大丈夫ですよ。
「それではよろしくお願いします。まずは今回、インタビュー受けてくださりありがとうございます」
──あ、はいはい。いいえ、こちらこそ。
「まずは■■■村が廃村になった経緯なんかをお聞かせいただけますでしょうか」
──はいはい、■■■村ね。あそこはね、うちのじいさんくらいの頃に東京の方から移住したもんで出来た村なんです。
「あ、だから。あまり方言が」
──まあ多少は訛ってるとこあるとは思いますけど。
「いえ全然。大丈夫です、わかります」
──そうですか。ちょっとね、私も当時どんな話で青森くんだりまで行くことになったんかまでは知らないんですよ。なぁんかね、東京にいづらくなるような理由があったんだかね。13世帯だったか、そんなもんで、何もない山ン中に村作って。そんでそっから町に働きに行くんですよ。わざわざ山道何時間も歩いて。うちの父親は普通の会社に勤めてなさったけど、まあじいさん世代の人達はちょっと何してたのかわかりませんね。
「そうだったんですね。何か勝手に農業とか林業とかですかね、そういうのをイメージしちゃってました」
──女どもはちっこい菜園なんか作ってましたけど、まあ趣味みたいなもんです。電気やら水道は来てなかったんで、女の仕事は家事と、水汲んだりたきぎ拾ったりってとこです。食料やらなんやらは週に1、2回、町の方に買いに行ってね。不便はありましたけど、そこそこ暮らしは豊かでしたよ。
「なんだかイメージしていた暮らしとはだいぶ……」
──そうでしょうねえ。いや麓の村の人なんかもね、私達のことはどこか気味悪がっているところありましたよ。何やってんだがわからん連中がねえ、急に移り住んできたもんだから。それでまた言葉も違うでしょう。ずいぶんジロジロ見られましたよ。我々子供達はね、学校にも行かず、村の中で育てられたもんですから余計にね、気味悪がられたもんです。うちの娘らの代からは学校にも普通に行かせてましたけど。
「なるほど……それで、廃村になった経緯は?」
──そりゃじいさんの世代が亡くなってね、親の世代も年取って、みんなどんどん引っ越して行って。もともとね、我々世代はあそこに住むことに理由なんてなかったから。うちはおじいさんが反対してたけれど、亡くなったんでね。他の家も大体おんなじ事情で。じゃあもうみんなで出ちゃおうかってね、なったんです。ちょっと私はその、土地の権利だとか、行政の手続きだとかっていうのはね、どうしたのかわかりませんけれど。
「その、村の最後の日ってどんな感じでしたか?」
──最後の日? 特別なことは……。最後はうちと合わせても3世帯くらいでしたし。
「お別れ会みたいなのとかは? いや、ごめんなさい、わかんないですけど」
──ご挨拶くらいはしましたけど、お別れ会みたいなのは、別に。同じ市内に住んでますしねえ。今はもう年賀状のやり取りくらいですけど。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
──はいはい。
「もう少しお話大丈夫ですか?」
──ええ、どうぞ。
「ありがとうございます。あの、僕ら村を見に行ってきたんですが、その、妙にキレイだったなって思って」
──きれい?
「はい、遺留物っていうんですかね。けっこう廃村って当時のものが残されていたりするんですけど、全然なくて、キレイだなって」
──他所様のことは知りませんけど、ねえ、引っ越しの時に全部きれいに持っていきましたよ。ゴミもねえ、ちゃんと捨てるものは捨てて。それが普通じゃないかなと思いますけど。そうなんですか? 他所はそうじゃないんですかね?
「あ、いや、僕、僕らが見てきた廃村って、けっこうそういう感じだったんで。■■■村は妙にキレイだなって思ったんですよ」
──そうなんですねえ。はあ、知りませんでした。
「あと、あの、井戸の上に空っぽの祠みたいなものがあったんですが、あれって……?」
──祠?
「今ちょっと画像共有しますね──これなんですけど」
──ああ、はいはい。なんでそんなところに置いてあるんですか?
「皆さんが置かれたわけではないんですか?」
──はい。それにね、そこ井戸じゃないですよ。ごみ捨て場。あの、ほら、生ゴミとかね、土に還るものはそこに捨ててたんです。
「え? あ、ごみ捨て場ですか」
──そうですそうです。
「そうなんですね。で、この祠は?」
──商売繁盛のね、神様を祀ってたんですよ。お稲荷さん。昔はちゃんと木枠に納められてたんですけど。
「ご神体はどこへ?」
──その辺は■■さんが……。確か、市内の神社にお願いして良いようにして下さったって聞きましたよ。ごめんなさいね、私、あんまり詳しくなくて。■■さんに聞いてみましょうか?
「ああ、いえ、大丈夫です」
──ごめんなさいねえ。亡くなった主人ならもっと色々お話できたかも知れないけれど。
「最後に、お聞きしたいのですが。あの、今、あの村が心霊スポットになっているってご存じでしたか?」
──いいえ、まったく。娘と孫から聞いて、びっくりしましたよ。
「なにか、あの場所が心霊スポットと呼ばれるようになった原因に思い当たることはありますか?」
──全然。別に事故とか事件とかあったわけじゃあないですしねえ。ああ、でも……。
「なにか?」
──いえね、ずっと気がかりだったことがあるんですよ。村ではね、毎年お盆の時期にちょっとしたお祭りをやっていて。小さい村なんで本当にちょっとしたものなんですけど。私達、あの村から越したのはお盆の時期だったんです。主人なんかもなかなか他で休みが取れなかったものでね。で、その年はお祭りをやらなかったんです。だから、帰っていらしたご先祖様がね、こちらに来たままになってるんじゃないかってね……気になってたんです。
「なるほど! それは興味深いですね」
──もし、それで今■■■に幽霊が出るというなら、もしかしたらそのせいなんじゃないかって。先日娘から話を聞いて以来、気になって気になって……。
「ちなみに、その、お盆の霊を送るお祭りっていうのはどういったものだったんですか?」
──お祭りっていっても、大したものじゃないんですよ。ちょっと皆んなで集まってお酒を飲んで。それでその夜、寝る前にね、精霊馬に手を合わせてお祈りするんですよ。呪文を唱えながら。
「呪文? どんな呪文ですか?」
──ええっと……何でしたかね……。私もね、親が唱えてるのを聞いて覚えたもんだから、意味もわからず唱えてたものでね……。■■さんが覚えてるかも知れないから、後で電話してみます。
「あの、もしわかったらその呪文、後で録音したものもらえませんか? 差し支えなければ、僕らがまた村まで行って、それを流してくるなんていうのは、どうでしょう?」
──私はよくわかりませんけど、娘に聞いてみますね。でもあんな山奥まで、ねえ、大変でしょうに。
「いえいえ。気にされてるってさっき仰ってましたし、僕らでよければ行かせて下さい」
──はあはあ、じゃあよろしくお願いします。
「こちらこそ、録音、よろしくお願いします」
──はい。
「えっと……それでは、長時間ありがとうございます」
──はいはい。もう終わりですか?
「はい。また何かあれば連絡、あのお孫さんにね、連絡させていただきます」
──はいはい。
「それでは、ありがとうございました」
──はい、じゃああの、娘にかわりますね。
「あ、はい、じゃあお願いします。あの、ありがとうございました」
(略)
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