2. 雨宿り

「お前は、絶対に逃げるんだ。ここからずーっと行ったところの森に、俺の知り合いの「エルム」という奴が住んでる。」

そう言って小さく折りたたんだ紙を渡してくれた。

「あいつならきっと、ボウズを助けてくれる。だからっ…!」

泣きそうな顔をしながら、もう一度僕の目をしっかりと見た。おじさんの後ろには赤い炎が見えた。

「だから、生きてくれ…w」


視界がぱっと晴れたような気がして、「生きなければいけない。」そう思った。

涙はいつの間にか乾いていた。

「わかったよ、おじさん。」

僕はおじさんの目をしっかりと見つめて、それから走って門を出た。





ーーーーーー






どのくらい走っただろう。

気づけば肺はもう限界を迎えて、心臓はドクドクとこれ以上ないほどに脈打っていた。

街からは遠く離れたであろうことは分かったが、心身共に限界を迎えた僕は、

その場で原っぱに横になった。


「あ”ー!疲れたぁ…。」


ぐーっと伸びをして、空を眺めた。

その横で様々な色の花々が揺れて、風が僕の頬を撫でて去って行く。

空はいつの間にか曇っていた。

途端にマカラでの出来事を思い出して、目元に涙がじんわりと浮かんできた。


「父さんも、母さんも、リアも、全部失っちゃったな…。」


ぽつりと目から涙が流れたと思った。いや、違う。まだ涙は溢れてない…。


「…雨?」

そう呟いた途端にぽた、ぽたと降ってきた雨は、次第に大雨へと変化していった。

近くに雨宿りできそうな場はないかと辺りを見渡したら、少し先の方に木の影のようなものが見えた。


「あそこで少し雨宿りをしよう。」


上着についていたフードを被って、肩から下げていたポシェットを、濡れないように上着の中に入れた。


木の下まで着くと、雨は不思議と降り注いでこなかった。だが、ほっとしたのも束の間。


「そうだ、おじさんのメモ…!!」


おじさんからもらったメモの存在を今の今まで忘れていた


急いでポシェットから紙を取り出し開いてみると、いくらカバンに入ってたとは言え、字が少し滲んでしまった部分はあったが、読めなくはなかった。


「よかった、まだ読める。」


地図に沿って見ると、もうこの周辺にエルムさんの家があるらしい…が


「雨じゃ行動できないよなぁ…。」


うーんうーんと唸って、今日はこの木の下で過ごすことを決めた。

幸いにも木は2本が傘になるように生えているから、枝に糸でも張れば物は干せるだろう。


「そういえばポシェットの中身をきちんと見ていなかったな。」


今更ながらポシェットの中身を地面にゴロゴロと出してみた。

おじさんのメモ、母の形見の小さな時計、貰い物のハンカチ、何故だか入っている野菜のタネ、おやつに取っておいたクッキー(粉砕されている)、リアがくれた毛糸のマフラー……。

など、使えそうな物から、どこに使うかいまいちよくわからない物まで出てきた。

まあ、とりあえずは雨が止むまで持てばいいんだ。


「あ、寝床どうしよう。」

時計を見ると、午後5時を指していた。

もう陽は傾き、水平線に没しようとしていた。このままでは夜を迎えてしまう。

もし、それまでに雨が止まなかったら……。


とりあえず背が高めの雑草(なんて名前の草はないが。)を探して、それをむしって地面に敷き詰めてみた。

うん。草のベットだ。

場所を整え、仮眠は取れるようになった。思っていたより疲れていたのか、急に眠気が出てきて、僕はベットに突っ伏した。


少しだけ休んだら、きっと雨はやんでいるだろう。


僕は重い瞼をそっと下ろした。

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