春に散る

小田虹里

実に愚かだ

桜のつぼみも膨らみはじめ、陽の光も穏やかに。

直に春が来るというのに、僕の心は穏やかではない。


新しい環境、新しい世界。

変わらない環境、安定した世界。


それらはどちらも求められるものであり、期待するもの。

人は変化を望みながらも、不変も望む矛盾した生きものなのだ。


幸せになりたいと思い、手を伸ばし。

孤独から逃れたいと、手を伸ばし。


ようやく掴んだそれが、大きければ大きいほど怖くなる。

するすると毛糸がほどけるように、手からすべり落ちていく感覚。


嗚呼、怖い。

僕はまた、闇の中に戻るのか。


掴んだ幸せが小さいと、満足できず。

大きいと恐怖に駆られてしまう。


ひとは、なんて愚かしいのだろう。


桜が開く。

また、春夏秋冬がはじまりを告げるのだ。


直ぐに散ってしまうソメイヨシノよ。

僕の希望まで、枯らしてしまわぬよう。

どうか少しでも長く咲き、この曇天をピンクの花弁で覆っておくれ。


願わくば、僕らの幸せが永く続きますように。

希望を失う恐怖から、どうか逃れさせてくれたまえ。

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春に散る 小田虹里 @oda-kouri

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