第37話

彼女からの返事はない。困惑した顔でこちらを見つめているだけだ。



俺はできるだけゆっくり、ゆっくりと彼女に近づいた。



彼女が嫌がることはしたくない。だからもし嫌だったら逃げてほしい。



…本当に逃げられたときに俺が大丈夫でいられるかは定かじゃないけど。



ゆっくりとかがんで、彼女の体に腕を回す。



拒絶されなかったことに心底安心しながら、一瞬だけぎゅっと力を込めてみた。



華奢な腰だ。



お互いの分厚いコートが煩わしい。



彼女はおとなしく俺の腕の中に収まっている。



しばらくして彼女が少し身を引いたので、残念に思いながらも素直に腕を外した。




「おやすみ」




「おやすみなさい」




そう返した彼女はサッと頭を下げるとマンションの中に入っていった。



…俺の心臓、うるさ。



彼女にも聞こえてたとしたら、ダサすぎる。

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