第32話

駅に着いた。



いつも通り彼女は俺に頭を下げ、改札に入ろうとする。




「今度」




と俺は彼女のことを呼び止めた。




「今度、一緒にご飯、行ってくれない?」




俺、今めちゃくちゃ緊張してるっぽい。



一言一言区切らないと、声が震えてしまいそうだった。



彼女は少し考えている様子で、返答に迷っているみたいだった。



俺とご飯行くの、嫌かな。



思わず、


「嫌?」と首を傾げた。



なんとも言えない様子で俺のことを少しだけ見つめた彼女は、ぶんぶんと首を横に振った。



その返事にホッとすると同時に、嬉しさが込み上げてきた。



彼女に一歩近づいて、透き通るビー玉みたいな彼女の目を見つめる。




「嬉しい」




そう目を細めて言うと、彼女は急いで頭を下げて改札内に入って行った。



俺はそんな彼女の後ろ姿を眺めながら、嬉しさを噛み締めた。



家に帰り、いつも通りの定型文のあとに続けた。



「いつ空いてるの」



「基本いつでも空いてます」



「じゃあ来週の月曜日」



俺は彼女に会える直近の日を指定した。



「わかりました」



「おやすみ」



「おやすみなさい」



月曜日まで、長すぎる。

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