第30話

いつもの通り、ビルから出てきた彼女と並んで歩いていると、珍しく彼女の方から口を開いた。




「あの、久貝さん」




「ん?」




「今日は私から久貝さんに質問したいんですけどいいですか?」




「…」




…びっくりした。彼女から俺に質問があるなんて。



俺のことが知りたくなったのか、質問攻めにあっていたのが嫌だったのか、場をつなぐためなのかはわからないけど、話しかけられたことは素直に嬉しい。



返事をしない俺を見上げた彼女と目が合う。



思わずパッと目を逸らして前を向き、



「いいよ」と返した。




「好きな食べ物はなんですか?」



俺と同じように質問してきた。



「にく」



「嫌いな食べ物は?」



「パクチー」



「趣味は?」



「ゲーム」



「好きな季節は?」



「夏」



「嫌いな季節は?」



「冬」



淡々と続く彼女の声が心地良い。



「好きな洋服のブランドは?」



「ユニクロ」



「…意外」



「なんで」



彼女は、あ、という表情をした。どうやら心の声がこぼれてしまったらしい。



「すみません、なんか意外と庶民的だなと思って」



俺は思わず笑いがこぼれてしまった。




「俺、霜月さんにどういうふうに見えてるの」




彼女は少しだけ目を見張ると、すぐに質問を再開した。



そのあとに続く質問にも、俺は彼女の回答を復習しながらできるだけ丁寧に答えた。




「久貝さんはどうして私のこと知ってたんですか?」




このタイミングでこの質問が来るとは。全然準備してなかった。



でも気になるのは当たり前か。



俺は少し考えたあと口を開いた。




「教えない」




彼女はムスッとした表情を作る。そんな顔をしていてもかわいくて仕方ない彼女にフッと笑って、




「そのうちわかるよ」




と意味深な言葉を付け足しておいた。



これで俺のこと考える時間が増えればいいのに。

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