第29話
そこから俺はほとんど毎日彼女のもとを訪れた。
彼女の職場しかわからないから、もちろん平日だけ。
毎日はさすがに引かれるかなと思ってあえて行かない日も作ってみたりしたが、2日連続で行かないとかは無理だった。土日なんか苦行だ。
毎度駅まで送り届ける。駅までの道は、何も喋らない日もあったし、最初と同様に、俺が一方的に彼女の好きなものと嫌いなものを聞き続けることもあった。
彼女の方から話しかけてくることはほとんどなかったが、改札の前ではいつも律儀にぺこりと頭を下げてくれるし、たまにエスカレーターの途中で振り返ってくれる。
俺は家に帰ると、メッセージを送った。
「家着いた?」
「着きました。今日も送ってくれてありがとうございました。」
「ん。おやすみ」
「おやすみなさい」
翌朝に
「おはよう」
「おはようございます」
と定型文化したメッセージのやりとりをする。
ある日の朝、俺の「おはよう」に対して、「おはようございます。今日在宅勤務です」と返ってきた。
彼女が現れない日がたまにあったが、そういうことだったのか。
休んでるのか、フルタイムで働いていないとか、そんな感じかと思っていた。
「ん。ありがと」と返しておく。
それから彼女が在宅勤務のときは朝にそのメッセージも届くようになった。
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