第25話

結局夕方になっても既読はつかなかったので、俺は昨日と同じようにビルの前で彼女を待った。



2日連続で待つのは初めてだ。



彼女がビルから出てきて、俺に気づいた。




「なんで返信くれないの」




俺は少しムッとした表情で彼女に問いかけた。




「すみません」




彼女は申し訳なさそうにしている。



メッセージを無視されたおかげで今日はここに来て、今こうして彼女に会えているわけだから全然いいんだけど。



もっと話したいな。




「…駅まで送る」




俺がそう言うと、彼女は少し驚いたような顔をした。




「1人で行けます」




俺と歩くの嫌なのかな。



「嫌?」



と首を傾げると、彼女は俺から目を逸らし少しの間黙り込んだあと、駅の方に歩き始めた。



嫌、ではないみたいだ、たぶん。



彼女と並んで歩く。俺はよく彼女が駅までの道を1人で歩いているのを眺めていた。



なのに今は並んで歩いている。すごい進歩だ。



俺は感傷に浸りながら隣を見やると、彼女はものすごく気まずそうに、鞄の紐をぎゅうぎゅう握りしめている。




「あの」



とかわいい声が聞こえてきた。




「なんて呼んだらいいですか?」




「なんでもいい」




「じゃあ、久貝さんで」




名前を呼んでもらえるような仲になるとは。




「ん」



と短く返し、再び沈黙が流れた。



彼女は相変わらず鞄の紐を握りしめて気まずそうにしている。



そんな彼女が愛おしく感じて、フッと笑いをこぼしたあと、俺は沈黙を破った。




「霜月サンは、どこ住んでるの」




警戒心の強い彼女はいきなり自分の住んでいるところは教えてくれないだろう。



隣を見ると、案の定返事に困り、考え込んでいるような表情だった。



好きな子ほどいじめたくなる心理が理解できた気がする。



前も思ったけど、困っている顔がかわいすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る