第17話

翌日も彼女のところに行きたいのは山々だったが、連続で行けばそれこそ不審度が増すだけだ。



俺は1週間置いて、再び彼女のもとを訪れた。



…1週間置いたくらいで不審度が減るとも思えないけど。



とりあえず今日は先週のことを謝ろう。



彼女がビルから出てきた。



俺には目を向けずに俺の前を通り過ぎようとする。



慌ててその後ろ姿に声をかけた。




「なあ」




先週のように腕を強引に掴むのはもちろんなしだ。




彼女が振り返る。無視されなかったことに心底安堵した。




「私のことですか?」




俺はその言葉に頷く。



一方的に見るだけだった人と今会話をしているということが感慨深くなった。



彼女の口からまともな言葉を聞くのは初めてだ。



やっぱり、声もかわいい。




「この前、」




この前、急に変なこと言ってごめんなさい。



そう続けようとしたが、彼女に遮られた。





「ひ、人違いじゃないでしょうか、、?」





人違い、なわけがない。




「人違い、じゃない」




頭に浮かんだ言葉を反芻した。



彼女はその目に困惑の色を浮かべながら、俺のことを見つめる。



緊張する。その目に俺が写ってるというだけで。



彼女はそのまま俺を見つめたあと、サッと立ち去ってしまった。



まあ、当たり前の反応か…。



謝れなかったな。



ふぅと大きく息をつく。



…やばいな、俺相当好きになってるな。



長い月日、育てに育てた感情が先週みたいに彼女の前で溢れ出ないようにするのに必死だった。



困らせている張本人が言うのもなんだけど、困ってる顔、かわいい。



だけど困らせたいわけでも、嫌な思いをさせたいわけでもないから、とりあえず、顔見知りくらいになれるように頑張ろう。



その時の俺は、そんなことを悠長に考えていた。

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