第16話

目の前でこぼれ落ちそうなくらい大きく目を見開いていた彼女は、すぐに俺のことを振り切って、逃げるように駅の方面に走って行った。



彼女の目に写っていたのは、驚きと、困惑と、怯えだった。



当たり前だ。見知らぬ人に意味のわからない言葉を言われたのだ。



てか俺、好きって言ってたな。



今更になって気づく。



好きとかそういうのは考えたことがなかった。



彼女とどうなりたいかと言われたら、声が聞きたいとか、接点を作りたいとか、そんなことしか浮かばなかった。



…これって、一目惚れ、か。



彼女のことを忘れられなかったのは、一目惚れだったからか。



考えてみれば当たり前のことに、ようやく気がついた。




まあそれはそれとして、彼女にとって今の俺の印象は最悪だ。



ゼロスタートどころかマイナススタートになってしまった。

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