第5話

「なんで、泣いてるの」




俺の声にハッとした彼女は、こちらに目を向けることもなく、頬につたった涙をサッと拭うとパタパタと走って立ち去ってしまった。



…声かけなければ良かった。



俺は彼女の後ろ姿が見えなくなっても彼女が駆けていったところから目が離せない。



なぜか篠原の言葉が頭に響いた。





『それはお前がまだそう思えるだけの相手に出会ってないからだよ』





何かが変わっていきそうな、そんな予感がした。

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