第4話

そんなことを1人でぼんやりと思いながら中庭をゆっくり歩く。



ザッと急に風がいっそう強く吹く。



重心が持ってかれそうになる。



思わず顔を上げると、中庭のベンチに腰かけている女性が目に飛び込んできた。



その瞬間、さっきまでとは逆方向に風が強く吹いて、彼女の横顔があらわになった。





「…」





泣いている。





目の前の彼女は、強く吹きつける風になびく髪なんか気にも留めない様子で涙を流している。



桜の花びらが舞って、春の光が彼女の涙をキラキラと輝かせる。




「…」




俺はその光景から目が離せない。まばたきすらも煩わしい。



俺と彼女の間を春一番が強く強く吹き抜ける。



耳でビュービューと音が鳴っているのに、やけに速い自分の心臓の鼓動もなぜかはっきりと聞こえる。



俺と彼女の距離はそんなに遠くないのに、彼女は涙で視界が滲んでしまっているのか、俺には全然気づかない。



思わず声がこぼれた。

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