第10話

体育館まで行くには、校舎の正面に設けられた下駄箱から、ぐるりと迂回しなければならない。週番の仕事で帰りが遅くなった絵美の他に、生徒はほとんど残っていないようだった。今朝もらった手紙が入ったカバンを右手に持ち、校舎沿いに歩いて行く。カバンに提げられたHのイニシャルが入ったキーホルダーが、歩調に合わせてチャリチャリと音を立てていた。

歩きながら手紙の差出人について考えた。モトはいつも金子達と一緒にいた。とはいっても、正式な仲間と言うより彼らの遊び道具として。先月の持ち物検査の日、モトのカバンに成人向けの雑誌が入っていて、みんなの前でひどく怒られたことがあった。友だちから聞いた話によれば、それも金子達の仕業だという事だった。確かにあの気の弱そうなモトが、学校にそんな本を持ってくるとは思えない。ましてや月例の持ち物検査の日に。モトは完全にいじめられていた。

横長の校舎が途切れ、体育館が見えてくる。焼却炉までは、さらにこの体育館を通り過ぎなければならない。昼休みなどは、遊び疲れた生徒たちが座り込んで話をしているのだが、放課後はほとんど人気がない。部活動中にはそれでも何人かのサボり部員がいるが、期末テストを控えて昨日から休みに入っていた。

絵美はその姿を見つけ、ぎくりとした。夕日を背中に携えてモトが立っていた。

「伝えたい事ってなに?」

人気のなさと、急に暗くなり始めた空にせかされ、いらだった口調になっていた。早くこの場を去りたかった。

「ああ…。僕が呼んだわけじゃなくて…。金子君たちが勝手に…」

「じゃあ、用はないのね?」

わざわざここまできた自分が馬鹿らしくなった。初めてもらったラブレターに舞い上がってしまったんだ。そう思い踵を返そうとした時だった。

「まあ待てよ」

物陰に隠れていた金子の野太い声が響いた。

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