真相

第8話

今朝、牧野絵美は同級生からの手紙を受け取った。それは下駄箱に届けられていた。はなはだ古典的な手段であったが、それが彼女を、少女漫画の主人公になったような気分にさせた。

容姿は決して悪くない。顔の造りは整っているほうである。しかしどこか垢抜けないところのある彼女は、特に異性にもてたという経験もなく、いつも女の子たちと一緒にいるタイプだった。その絵美にとって恋は憧れの対象であり、ましてラブレターは、憧れの恋を象徴する代表的なアイテムであった。


この前の火事のときはどうもありがとう。君のおかげで助かりました。僕は前から君のやさしくてまじめなところが好きでした。伝えたいことがあります。今日の放課後、体育館裏の焼却炉の前で待ってます。

Dear牧野絵美 fromモト


差出人の名前には覚えがあった。三組の男子。特に仲がいい訳でもなく、それどころかまともに話したことすらほとんどない相手だった。先週起きた体育倉庫ボヤ事件以前なら、名前を思い出せるかどうか自信がないくらいだった。しかしその事件で、絵美の証言が結果的に彼を救った。


夏に引退したバスケットボール部の練習に顔を出した絵美は、終了後も一人で体育館に残っていた。いつも一緒に帰っている元陸上部の友だちも今日は部活に出ていて、それが終わるまでにはまだ少し時間があった。この中学校での生活もあと数か月で終わる。卒業前の感傷的な気分が彼女をそこに留まらせた。苦しかった思い出は過ぎてしまうとなぜか美化されて残る。そんな不思議な気持ちに浸りながら、オレンジ色の校庭を眺めていた時だった。ステージに上がるために設けられた五段ほどの階段に座っていた彼女の背後、ステージを挟んで対称に、同じように設置された階段の近く、体育倉庫の辺りで物音がした。振り返ると、「金子軍」と呼ばれる、いわゆる不良と分類されている生徒達の、特に主要メンバーである三人が走って出て行くのが見えた。一分と経たず、さっき出て行ったばかりの金子達と共に体育教師が現れ、倉庫の扉が開かれた。その瞬間、中から煙がもうもうと溢れた。何事かと思い、絵美もそちらへ向かった。開かれた扉から中を覗くと、カーテンが煙を噴き出しながら燃えていた。それをジャージの上着で消そうとしているモトと、慌てて消火器を準備している体育教師の姿が見えた。金子達はただニヤニヤしながらそれを眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る