白いオーク

 暗くて冷たい場所にずっといた。

 

 身体中の傷がズキズキ痛んで、もう二度と目なんて覚めないんだって、そう思ってた。


 なのに……。


 ……あったかい……。


 なんだろう、これ……。


 さっきまで、まるで氷の中にいるみたいに寒かったのに……。


 その冷たさが、足の先からじんわりと溶けていくみたい。


 不思議……。


 でも…なにかが、ボクの足の裏を…。グリッ、グリッて、押されてる……?


 痛い……。


 でも、嫌な痛みじゃない……。


 なんだか身体の奥が疼くような……変な感じ……。


 この温かさと痛みが、無理やりわたしの意識を暗闇から引きずり上げていく。


 ボクはゆっくりと瞼を開ける。

 

「ん……」


 視界がぼやけて何もはっきり見えない。


 誰か……いるの……?


 ボク、助かったの……?


 そのとき――


 きゅるるるるるるるる!


「!?」 


 い、今の…わたしのお腹…!?


 その音に驚いたせいか、ぼやけていた視界のピントが、カチッと合った。


 そして目の前の光景が飛び込んでくる。


 そこにいたのは、ボクの足を掴んでニタニタと笑う、白くて太った裸のオークだった。


「ぬっ! お腹が鳴っておられますな、これは良き回復の証と見ましたぞ。もう少しで傷も完全に癒えますからな、しばらく我慢するのですぞ」


「オ、オーク!? ボクに何をしている! さっさと離れ……」


 恐怖でパニックになったボクは、白いオークの顔を蹴りつけようと、掴まれていない方の足を引き上げる。


 その瞬間、白いオークがボクの足に何かした。


 グリグリッ!


「ひぎぃいぃあああああああん❤」


 えっ!? 今のはボクの声なの!?


 足の裏から熱い何かが身体中を駆け巡って、喉が勝手に開いて、自分でも聞いたことのない声が出た!


 グリッ! グリッ!


「イタっ❤ あぁぁぁん❤」


 痛いのかどうかさえよくわかんないけど、白いオークがボクの足に何かするたびに、まるで自分の声じゃないような自分の声がお腹の底から出てくる。


「大丈夫ですぞ。痛みがあるのは生きている証でござる。傷はほぼ消えてござるが、美しい玉肌が戻るまで今しばらくの辛抱でござるよ。フカヌポー!」 


 ニタリと笑う白いオークを見て、ボクは背中に怖気が走るのを感じたよ。


「お、おまえ……」


 ボクは、自分の顔が真っ青に染まっていくのがわかった。


 犬耳族とオークはお互いに天敵のようなもの。


 傷を負って弱った犬耳族にオークたちがどんな酷いことをするのか。


 村の大人たちが怖い話をたくさんしてるのを聞いてた。


 オークに襲われた村がどうなったのか、ボク自身も目にしたことがある。


 だから本当に怖かったんだよ。


 あの村で見た女性の遺体のように、自分も……


「嫌ぁぁぁぁぁあぁあ!」 


 ボクは全身全霊の力を込めて暴れた。


 でも白いオークの足を掴む力がとてつもなく強くて、それにいくら顔を蹴っても微動だにしない。


 それどころか蹴りが入る度に、ニチャリとした笑顔になる。


「ご褒美ありがたき!」 


 ご褒美……?


 何を言ってるの、この化け物…!


 笑ってる……。


 ボクが苦しんでるのを見て、楽しんでるんだ…!


「もうちょっとでござる! もうちょっと、先っちょだけでござるから!」 


 グリッ! グリグリッ!


「んほぉおおおお❤ そこはらめぇ❤ らめらめらめぇええええ❤」


 苦痛と同時に全身を襲う猛烈な快感に、ボクの身体がボクの身体じゃなくなったみたいに、勝手に動いていく。


(ボク穢けがされてる! この白いオークに穢されているんだ!)


 頭が真っ白になる。


 そういうことなんだ。


 オークは捕まえたメスの獲物にたくさん酷いことをしてから食べちゃうんだって、村の人が言ってた……。


 パパ、ママ……。

 

 ごめんなさい…。


 白いオークが指に、さらに強く力が込めるのを、ボクは足の裏で感じていた。


 足の裏から、今まで感じたことのない、強烈な痺れと熱が身体中を駆け巡る。


 緑色の光が視界を覆う。


「んほぉおおおお♥ 」


 いや…! 嘘…!


 なんで、ボク、こんな声…!


 身体が熱い!  頭がおかしくなる!


 ダメ、こんなの、ボクじゃない…!


 でも声が止まらない…!


「そこはらめぇ♥ らめらめらめぇええええ♥」


 抵抗も虚しく、強烈な快感と苦痛の波に意識を奪われて、ボクはそのまま気を失ってしまった。


――――――

―――


 ………。


 ………。


 ……ん……。


 身体が……軽い……。


 あれだけ酷かった傷の痛みが……ない……。


 どうなってるの…?


 ボク、どうなったの…?


 ゆっくりと目を開ける。


 ボクは草の上に寝かされていて、大事なところは、誰かが摘んできたらしい草で隠されていた 。


 そして少し離れた場所に、あの白いオークが正座して座っているのが見えた。


 じっと、ボクの方を見てる……。


 目が合った。


「気づいたでござるかケモミミ少女よ。その体の傷は全て””が治したでござるが、どこか痛むところはござらんか?」 


 治した…?

 

 ふざけるな!


 こいつはボクを弄んでいただけだ!


 ボクが苦しむのを見て、楽しんでたんだ!


 許さない…!


 パパ、ママ、ごめん。


 ボク、オークに穢されちゃった……。


 でもこのままじゃ終わらない。


 この命に代えても、この白いオークだけは殺す!


「うがぁぁああああああ!」 


 ボクは鋭い爪を立てて、白いオークに飛び掛かった。


 でも、白いオークは男は咄嗟に腕でボクの攻撃を防ぐ。


 ガリッという鈍い感触。


 白いオークの腕から血が流れるのが見えた。


「ぬぼあっ! なっ、何をするでござる!?」 


「フーッ! フーッ! お、おまえは、ボクを穢した!」 


 ボクの言葉に、男の動きが一瞬止まった。


 その顔が、少しだけ動揺したように見えた。


「ハッ!? 我輩が少女に草を掛ける際、ちゃっかり発達途上の張りのあるマシュマロと突起をチラ見したことがバレてる!?」 


 何をブツブツ言っているのか聞き取れなかったけど、明らかに動揺してる!


 やっぱり聞いていた通りだ。


 ボクを穢してから食べるつもりだったんだ!


 食べられてたまるもんか!


 パパとママのところへ行くのは、この白いオークを殺してからだ!


「おまえぇぇええええ!」 


 ボクは口から炎を吐く勢いで絶叫しながら、白いオークに飛び掛かって行った。


 白いオークは、飛び掛かってくるボクを指差して叫んだ。


「【お尻痒くな~る】! ハアァッ!」 


 突然、お尻に猛烈な痒みが走る。


「かっ!? 痒い!? お尻が、なんで…!?」 


 何なのこれ、なんなのぉぉぉぉ!?


 身体の奥から湧き上がってくるような、耐えられない痒み!

 

 自分でお尻を掻いても、全然痒みは解消されない。

 

 痒い所に届かないようなもどかしい感じ。


 ボクはたまらず、近くにあった岩に駆け寄って、お尻をこすりつけた。


 その瞬間、脳髄を突き抜けるような心地よさが押し寄せてくる。


「ふはぁあぁああああ❤」


 そして次の瞬間には、自分が痴態を晒していることがとてつもなく恥ずかしくなる。

 

 な……なんてみっともない姿……!


 屈辱……! 屈辱だ……!


 あの白いオークは、ボクがこんな格好してる隙に、森の奥へと逃げ出していた!


「ま、待てっ!」 


 追わないと…!


 でも……お尻が……痒くて、ここから動けない!


 あああ、もう!


「白いオーク! ボクは必ずお前を見つけ出して復讐する! 地の果てまで追いかけて、お前の臓腑を地にバラまいてやるからな!」 


 激しい勢いで叫んだから、一瞬、ボクは岩から腰を浮かせてしまい、それでまた強烈なお尻の痒みに襲われちゃう。


 くそ……っ! くそぉ……!


 心の中では激しい怒りに燃えているのに……。


 スリスリッ! スリスリッ! スリスリッ!


 岩にお尻を擦りつける度、ボクは痒みが解消される快感と、自分のみっともない姿に対する屈辱と、白いオークへの怒りで、頭も心もぐっちゃぐちゃになったんだ。


「ふはぁあぁああああん❤」

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