第7話 友人

「講習は15時、思ったより早かったわね」


 カレンは凝り固まった体をほぐすように、腕を大きく広げた。


「うん、早かった。ゴレム・ストーンのレンタル料も思ったより安かったし」


 本来ならば自分のゴレム・ストーンで講習を受けるのが一般的だ。

 生憎、ルカの石はまだ祠の石碑に嵌まったままだった。


 ゴレットの講習が受けられるようになるのが成人式の後というのもあって、石を持っていない人の方が珍しい。

 


「ごめんね。やっぱり私が先にやっておけばよかった」


 カレンはバツが悪そうに顔を背けた。


「気にしないで。僕が勝手にやったことだから」


 ルカはそう言うが、カレンの表情は晴れない。


「ほら、早くフィオナたちのところへ行こうよ。さっき会ったとき、噴水の前で休んでるって言ってたよね」


 二人は行列に並んでいたとき、ちょうど講習を終えたフィオナたちと出くわしていた。

 彼女は同じく成人を迎えたアイザックと一緒に屋台を回っていたようで、首に瑠璃色のペンダントを着けていた。


「そうね。もうお昼時だし、皆で何か食べたい」


 カレンはルカの手を引いて階段を降りる。


 *


「あ、いたいた。おーい、フィオナー!」


 噴水の周りには大勢の人が集まっていた。

 カレンはフィオナの特徴的なホワイトベージュの髪を見つけると、大きく手を振って呼びかけた。


「カレン!」


 フィオナは後ろを振り向き、パッと明るい笑顔を浮かべて手を振り返した。

 その隣には、アイザックが真っ白な団子を木の筒に入ったとろみのある茶色のタレに絡めて口一杯に頬張っていた。


「講習、どうだった?」


 カレンが尋ねると、フィオナは陽気に返す。


「もう全然、簡単だったよ。私は30分くらいかかったけど、カレンならすぐに終わるんじゃないかな」


 アイザックも無言で頷く。


「当然でしょ、私は天才美少女なんだから!」


 カレンは胸を張って答えた。

 彼女は褒められると、いつも決まってこう返すのだ。


「うわー、カレンのそういうところ羨ましいよ」


 フィオナがクスクスと笑い、アイザックも小さく吹き出した。


「ところで、フィオナたちはもうご飯食べたの?」


ルカの問いに、フィオナは首を横に振る。


「ううん、まだ。カレンたちと合流したかったし、さっきまでお昼時で人がいっぱいだったから」


アイザックも団子を頬張りながら相槌を打つ。


「それじゃあ、どこか食べに行かない? カレンは食いしん坊だから、そろそろ限界だと思う」


 ルカがそう言った途端――。

 ぐぅぅと、カレンの腹が可愛らしく鳴いた。

 カレンはご飯を食べるのが好きなだけだと否定したかったが、この状況では不可能だろう。

 彼女はただ、拳を握りしめて真っ赤な顔を隠すように俯くばかりだった。

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