第6話 エンシュウ
アルカ村から西に位置するエンシュウの街では、成人を迎えた若者たちでごった返していた。
成人式が終わると、多くの子供たちが街に押し寄せるため、毎年この時期は祭りのような賑わいを見せる。
街中の広場では露店がずらりと並び、普段ならば目にしないような珍しい食べ物や煌びやかな装飾品がそこかしこで売られていた。
「予想通りだけど……やっぱり、この時間は人が多いね」
けだるそうにルカが呟く。
彼は、カレンとはぐれないように彼女の手をしっかりと握りしめていた。
人が集まれば集まるほど、治安は悪くなる。
親の中には、人さらいや盗賊を警戒し、街に行くことを禁止する人もいるぐらいだ。
万が一にも、カレンをそんな目には遭わせたくなかった。
アルカ村からエンシュウの街までは大体5kmほどの距離がある。
時間にしてちょうど1時間、ゴレットがあれば、もっと早く着いただろうが、二人はまだゴレットの作成方法を知らないし、誰かに乗せてもらうほど贅沢もできなかった。
エンシュウほどの大きな街では、ゴレットの作成や操作方法に関する講習が開かれるため、二人はそれに参加するつもりだった。
「今年は特に人が多いみたい。道中でゴレットに乗った兵士も見かけたし、ガラの悪そうな人たちがチラホラいるわ」
カレンは周囲を見渡して言った。
確かに、街の外れには顔に傷のある大柄な男たちをちらほらと見かける。
彼らの視線は落ち着きがなく、まるで何かを探しているかのようだった。
「そうだね。例年だと街では見かけないような人たちばかりだ」
これもムニキスの影響だろうか――。
今、エルディア王国やその近隣諸国では『ムニキス教』と呼ばれる新興宗教が流行していた。
『全てが無に帰す時、世界は浄化される』
そのスローガンのもと、世界各地で信仰を広めているらしい。
現在、エルディアでは、近隣諸国との戦闘による物価の高騰や一部の食料不足が影響して、指導者ムニキスの権威が年々高まりつつあった。
当然、王国はそれを許すはずもなく、一斉に弾圧を始めた。
逃げ延びた信者たちは賊に身を落とし、今もなお各地で騒乱を引き起こしている。
「ルカ、どうしたの? 早く講習の予約しないと、枠が無くなっちゃうかもよ」
カレンの声に、ルカはハッと我に返る。
今日は特別な日だ、こんな暗いことを考えている場合じゃない。
「ごめんごめん。カレン、行こうか」
二人は噴水広場を通り抜け、講習会場へ向かう。
階段を上がった先には、すでに行列ができていた――。
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