第3話 ルカ

 アルカ村の北に位置する教会には、多くの青少年が集まっていた。

 村は小さくとも、成人式は一人前として認められる重要な儀式のため、しっかりと準備を執り行う。

 村の大人たちはいつも仕事で忙しいので、毎年後輩たちが準備をしていた。

 ……そのはずなのだが、今年は奇妙なことに、もうすぐ大人になるはずの少年が1人混じっていた。

 子犬のような丸い目をした、ショートボブの少年──ルカ・タナトーは、後輩を手伝うために朝早くから教会に来ていた。


「そこはもう少し右のほうが見栄えがいいね」


 ルカは後輩に指示を出しながらも、自ら率先して飾り付けを手伝っていた。


「ルカ先輩、これでいいですか?」


 小さな女の子が不安そうに花飾りを見せる。



「うん、すごく綺麗にできてるよ。ありがとう」


 ルカが優しく微笑みながら頭を撫でると、女の子は顔を真っ赤にして俯く。


「後はもう大丈夫かな……」


 ルカは周囲を見渡し、飾り付けが終わっていない場所を探した。

 そこかしこで準備が終わったのか、教会内は子供達の和気藹々とした声で包まれていた。

 その時──


「ルカー!」


 力強く教会の扉が開き、カレンが姿を現す。

 突然の声に、教会の中にいた子どもたちが一斉に振り向くが、またいつものことかと気にせずに元の雰囲気に戻っていく。


「お、おはようカレン……」


 ルカは少し戸惑った様子で微笑む。

 その様子に、カレンは拳を握り締めて頬を膨らませた。


「おはようじゃないでしょ!」


 カレンは足早にルカへ詰め寄ると、目の前でぴたりと立ち止まった。


「ち、近いよカレン……」


 ルカは赤面しながら後ずさるが、カレンはそれを許さず、さらに顔を近づける。


「なんで今日迎えに来なかったの」


「えっと……その……」


 ルカは目を泳がせながら、頬をかく。


「成人式の準備を手伝いたかったんだ……」


「手伝いたかった、じゃないでしょ! この馬鹿真面目!」


カレンは呆れ、やれやれと大袈裟に首を振り、ため息をつく。


「誰かに頼まれたわけでもないのに、勝手に手伝って……私はほったらかし!?」


「……カレン?」


 ルカは驚いた様子でカレンを見つめる。

 カレンの表情がいつもと少し違い、悲しげに見えたからだ。


「いつもみたいに、迎えに来てくれると思ってたのに……」


 カレンはそっぽを向いてしまう。


「……カレン、ごめんよ」


 ルカは困ったように笑う。


「君と参加する式だから、より特別なものにしたかったんだ……」


 そう言うと、カレンは少し気を許したのか表情が穏やかになった。


「……まあ、そう言うことなら仕方ないから許してあげる。でも、次からはちゃんと声を掛けなさいよね。──私だって、一緒に手伝いたいんだから」


「一緒に……?」


ルカは首を傾げ、腕を組む。


「誘っても、カレンは起きないだろ?」


「何ですって!!」


再び、カレンの表情が険しくなり、ルカは青ざめる。

必死に弁解をするのだが、次に彼女の機嫌が直るのは、成人式が始まる直前であった。

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