第11話 『流星に願いを』
冬の澄んだ空気が街を包む夜、星降堂の扉が静かに開いた。
「こんばんは」
入ってきたのは、一人の女性だった。マフラーに顔を埋め、白い息を吐きながら店内を見渡す。
「いらっしゃいませ」
私が声をかけると、彼女は少し照れたように微笑んだ。
「夜の本屋さん、なんて素敵ですね。たまたま通りかかって……でも、なんだか引き寄せられたような気がして」
「そう感じていただけたなら嬉しいです。ゆっくり見ていってください」
彼女は頷きながら、ゆっくりと本棚を歩いていった。指先がそっと背表紙をなぞり、ふと、一冊の本の前で立ち止まる。
「流れ星の本……」
彼女はぽつりと呟いた。
「昔、誰かと約束したんです。『流れ星を見たら、一緒に願い事をしよう』って。でも、その約束は果たせなくて」
彼女は静かにその本を手に取る。
「もう何年も経ったのに、不思議ですね。今夜、ふとそのことを思い出して……それで、ここに来たのかもしれません」
私は静かに微笑んだ。
「この店で選んだ本は、その夜、持ち主に『運命の夢』を見せると言われています」
彼女は驚いたように私を見たが、やがてそっと本を胸に抱きしめた。
「それなら、夢の中で……もう一度、約束を思い出せるかもしれませんね」
◇◇◇
翌日、彼女は再び店を訪れた。
「夢を見ました」
昨夜よりも、どこか柔らかな表情で彼女はそう言った。
「どんな夢でしたか?」
彼女はそっと微笑んだ。
「流れ星の下で、誰かが私の手を取っていました。顔ははっきり見えなかったけれど、でも、懐かしい温もりで……」
彼女はマフラーをぎゅっと握る。
「夢の中で、その人は言ったんです。『願い事はした?』って。私は……私は、心の中でずっと願っていたんです。『もう一度、会えますように』って」
窓の外には、夜明け前の空が広がっている。
「目が覚めたとき、不思議と迷いが消えていました。だから、探してみようと思います。あの約束を交わした人を」
彼女の瞳には、昨夜よりも強い輝きが宿っていた。
外では、流れ星のように静かな風が吹いていた。
——願いは、叶うかもしれない。星降る夜に、運命の導きを信じながら。
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