第3話
「……な、なに」
突然の出来事に情けなくも肩が跳ねた。目を見開いてベランダの方に視界を移動させるも、カーテンがあるため問題のベランダを確認することは出来ない。
しかも今は夜。カチカチと音を立てては時を刻み続ける目覚まし時計を見る。こんな時間にやめてよね。あたしがハラハラとしていることなんて興味がないというようにどんどんと時を進めていくそれをひと睨みしてから再度ベランダの方を見る。
何度見直したところでやはりカーテンが視界を遮ってしまい、音の正体を確認することはおろかこっそりと覗き込むことも叶わない。
幽霊とかだったらどうしよう…。
あたし心霊系苦手なんだよね…。
夏定番の幽霊の話をしているテレビ番組だって見たことないし。というか一ミリだって、ミジンコ一匹分だって見ようとも思えない。夜、トイレに行くことが出来なくなることが目に見えている。
自分の部屋のなかでさえ、大声で歌いながらでないと歩けない気がするよ、恐怖のあまり。………いや、夜な夜な動くたんびに大声で歌っている女の方が幽霊よりも怖いかもしれない。
そんなことより、と何度目か分からないがベランダを凝視する。怖いと思いながらも少し気になって、おそるおそるベランダの方へ歩いていく。
ゴクリ、意を決するように喉を鳴らし、思い切ってカーテンを開ける。
すると、そこには信じがたいモノが。
「…いってえ。最悪だ」
ベランダには赤茶の髪をした男が不機嫌そうに胡坐をかいていた。
「普通、堕とさねえよ」
打ち付けたであろう腰をさすりながら文句を言っている男をまじまじと見る。とりあえず足はあるし、幽霊じゃないんだろうけど誰なのこの男…。
すると、不意に顔を上げた男と目が合った。
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