第35話 審判の間への侵入者あらわる
地獄空間の時間を止めた颯真は、羽根がボロボロのコウモリの紫苑とともに審判の間にやってきた。不本意ながら、見学という名の地獄に送りこまれるなんてとブツブツ文句を言いながら、閻魔大王のそばに近寄ろうとするが、見るに堪えない光景は2人は開いた口が塞がらなかった。
不穏な空気が辺りを漂っていた。ぐわんと空間が歪む。
「こ、これは一体どういうことなんだ?!」
「颯真ぁ、おいらの羽根治ってないからこういうことが起きてるんじゃないの?」
「いやぁー、お前の羽根とこれは関係ないだろ……」
「あらあら、戻ってきちゃったの~?」
審判の間の王座にいたのは、天照大御神が憑依した白く丈の短い着物を着た姫田 倫華の姿だった。閻魔大王が座るはずの玉座になぜ姫田 倫華がいるのか。閻魔大王は、姫田 倫華の目の前でロープをぐるぐる巻きにされ、口にはガムテープ。黒い布で目を覆われていた。姫田 倫華は白く綺麗で長い足を組み、さらに腕組みをして、にやりと口角をあげている。
「ぐ……ぐ……ぐぁ!!」
何かを言うともがき苦しむ閻魔大王の姿がある。さらにその横には赤鬼と青鬼が同じようにぐるぐるの包帯で巻かれてまるでミイラのような姿になっていた。話すことさえ困難で、表情も見えない。つま先だけが見えていて、色が赤か青かが判断できた。
「閻魔様の付き人の鬼たちもこんな……ひどいことを。なんでそんなことするんだよ!?」
「颯真、鬼さんたちより閻魔様を心配しようよ」
「いや、それはどっちでも良くて、なんでここにお前たちがいるかってことだ!」
「どっちでもいいのかよぉー」
「……ふーん、そんなにここにいては迷惑なのかしら。今日からここを私が審判すると言っても?」
「「はぁ?!」」
颯真は閻魔大王よりも鬼たちを心配してしまう。いつもの扱いがひどいからか敬遠している。颯真とコウモリの紫苑は顔を見合わせて、大声で驚いた。
「信じられないのかしら。ライトワーカーの私たちの力でこの方々を裁判すれば光に導くことができるなら、願ったり叶ったりではないか? 閻魔様なんて必要ないわ。地獄へ行かせて、体罰なんて与えるから、繰り返されるんじゃ。そんなんじゃ、いつまでも世界は変わらない。平和が一番じゃ」
姫田 倫華に憑依した天照大御神は大きく頷いて一人納得する。力ずくで閻魔大王を縛り上げたり、鬼たちをミイラにしてしまうことは体罰に当たらないのかと矛盾が生じている。颯真の頭には疑問符がたくさん浮かび上がる。
「ライトワーカー様が平和を目指すのは分かりますが、ここの地獄にいらしゃる意味があるのでしょうか?」
「この世のすべて! 下界も天界も平和な空間にするためじゃ。野蛮な下等動物たちに審判を任せられるわけがないわ」
「いや、だから、ここは天界じゃないですって。天国に行ってくれませんか? フィールド間違ってますよ? ここの空間よりまず先に天国でしょうよ」
颯真はもっともらしいことを説明して納得させようとした。閻魔大王と契約した以上、一応は味方であらねばならないと思いながらの説得だ。そもそも、なんでこんな必死になってライトワーカーたちを説得しているのか意味が分からなくなっている。できることなら、今すぐにでも下界に戻ってゆったり風呂でも浸かりたい気分だ。頭の中は入浴剤を何にしようか考えている。
「―――って私の話を聞いてる?!」
あーでもないこーでもないと聞いてるうちにだんだん頭に入らなくなってきた颯真。横にいたコウモリの紫苑でさえも肩の上でうたた寝をしている。喋り口調が姫田 倫華に戻っていた。
「あ、すいません。聞いてませんでした。それで、なんでここに来たんでしたっけ?」
「だから、さっきから言ってるでしょうが。私、姫田 倫華の方ね。天照大御神様は今、一服中だから言うんだけど、天国では私は新人で力も先輩たちより優れているからやっかみがひどくていじめられているの! あれは天国じゃなくて地獄よ。向こうの方が地獄なの。分かった? だから私の居場所が欲しいわけよ」
言ってることがハチャメチャで目的もふわりとしている。天国が地獄という意味がわからない。ここにいる閻魔大王はかなりの傷害罪を請け負っておりますが、そこに関しては盲目ということでよろしいのでしょうかと颯真は冷や汗がとまらない。
「ちょっと、黙ってないで何か言いなさいよ!!」
「……来週に続く」
「アニメのエンディングか!」
「違いますけど……反応が良いですね」
颯真はもがき苦しむ閻魔大王の体をつんつんして遊んでいた。ずっといじめられてきたからここぞとばかりにいじってみた。
「むーー……ぐぅーーー……」
閻魔大王はくすぐったくても声にも出せなくて辛そうだった。
「遊んでるんじゃないわよ!!!!!」
その様子にブチ切れた姫田 倫華は右手を大きく振り上げて、魔力を使った。たちまち地面から強い風が吹き荒れて、颯真は塀に叩きつけられた。四つん這いになった体を起こそうとしたが、ぎっくり腰になったようで動けなくなって、生まれたての小鹿のように止まっていた。
「話もしたくないわ!」
姫田 倫華は機嫌を悪くして、そっぽを向きながらずっと黙っている。
コウモリの紫苑は未だに鼻ちょうちんを作って爆睡状態だった。
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