第28話 一人残される異空間は存外快適
閻魔大王が審判を下す地獄の扉の審判の間にて、今日も罪人たちを裁いていた。いつもよりも増して、行列は混み合っている。コウモリの紫苑は、人でごった返す空間をぐるぐると回って冷や汗をかいていた。
「閻魔様~! 大変でーす。ライトワーカーとの接触が余儀なくされましたよぉ! どうすればいいんですか。今の颯真の力では消されてしまうのも時間の問題ですよ!」
扇子をバサバサと仰いで、近づいてきた紫苑を邪見に扱った。
「あぁ? ライトワーカー? そんなのけちょんけちょんにして倒してしまえばよかろう。気にせんで、人間界に戻れ。わしがつけた契約のタトューがあるんだからちょっとやそっとでは死なないわ」
横で罪状を読み上げる赤鬼が閻魔大王に次の仕事を誘導する。
「分かっておるわい! 紫苑、わしは仕事で忙しいんだ! 魔力がどうとかそんなのいいから、ささっとミッションこなしておけ。ライトワーカーを消すことができれば、ダークワーカーの仕事がサクサクッと進むってわけよ。こりゃ、楽しみだわ」
「本当にそれで大丈夫ですかぁ? 陰陽のバランスが崩れることはないんですか? おいら、何があっても責任負えませんよぉ」
紫苑はぶるぶると体を震わせて話す。鼻息を荒くして閻魔大王は続けた。
「何を言うか。この世界の陰陽のバランスなんぞ、元々狂っておるわ! ふり幅逆にしてみたら、案外都合よく進むじゃないか、知らんけど……? ハハハハハ」
笑いすぎて、頭が王座にガンとあたり、たんこぶを作る閻魔大王を見て呆れた紫苑だった。
「薄情な閻魔様だなぁ。先代の閻魔様はそんなじゃなかったのに……」
「何か言ったか?! 紫苑」
地獄耳の閻魔大王だということを忘れて、紫苑は慌てて飛び立った。丸い虹色の異次元空間を作り出し、下界へと移動した。
「先代のこと言うと、手に負えないくらい発狂するんだよな……」
「ああ、気を付けようぜ」
赤鬼と青鬼は閻魔大王の後ろでこそこそと話して、唾をごくりと飲んだ。罪人に真剣に向き合う閻魔大王は額に筋を作っていた。
「次、次だ。次の者を呼べ!」
「御意!」
扇子を振り下ろす閻魔大王に赤鬼は目をつぶって丁寧にお辞儀した。少しでも逆鱗に触れぬよう、神経をとがらせた。貧乏ゆすりをする閻魔大王の震えで地震並みに地面が揺れた。
――――紫苑は、下界に到着してあることを思い出す。隣にいるはずの颯真がいない。モール商店街に出た紫苑はくるくると旋回して辺りを探す。どこに行ったのか思い出す。
「あれ、確か、一緒に審判の間に行ったはずだけど、閻魔様と話したときどこにもいなかったなぁ。どこに行ったんだ?」
『おーい。紫苑、一人で突っ走るなよぉ~~』
異次元空間の中から颯真の声が聞こえる。紫苑は声のする方へ向かった。
「え、なんでそっちから? 颯真、どこにいるんだよ!」
『ここだって! 助けろっての!』
よく見ると異次元空間の隅に着ていた黒いマントがひっかかって、落ちそうになっていた。なんでこうなったかはわからない。下界と違って、宇宙空間のように無重力状態のため、ふわふわと体が浮くがひっかかった服は自力では取れなかった。
「はぁ?! なんでそんなところに。だっさいなぁ!」
「こ、コウモリに言われたくないわ」
「しっかりしろよな。ほら、とったぞ」
「ふぅ……もう、どうなるかと思ったぜ。でも、まぁ、閻魔様に会わずに済んで安心だわ」
「安心って、会いたくなかったのか?」
「だってよぉー、またタトューとか耳取られたりしたら嫌じゃん。耳のケガがようやく治ってきたのにさぁ」
「颯真はチキンだなぁ。おいらはコウモリだけど」
「はぁ? ちげーよ。俺はせせりだよ」
「意味わからん! せせりも鶏肉だわ」
「確かにその通り!」
「何の話してるのさ」
「……まぁ、いいや。とりあえず、ライトワーカーってところに乗り込んでいいんだろ? お前の超音波センサーが反応してるらしいから」
「そーそー。気まぐれに反応するおいらの超音波ね。覚悟しておけよ、次は今まで通りじゃいかないかもな」
「……ほぉ、お手並み拝見ってやつだな」
颯真は指をぽきぽき鳴らして、体全体のストレッチをしたが、無理に動かした腰が変な音を鳴らした。
「いたたたた……」
「おじさんになったのか?」
「うっせーよ! いったー……ちくしょー」
紫苑は、颯真の頭の上に透明にある粉を振りかけた。颯真の痛みのことは完全に無視されて、任務が開始される。
「わー、湿布貼らせてーー」
「もう、無理。行くよ」
「どうなっても知らないからなぁーー」
「…………」
紫苑は何も言わずに瞬間移動の魔法を使った。颯真は下唇を噛み、拳をにぎりしめて、覚悟を決めた。
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