第2話
オレと如月凛子が出逢ったのはオレが一年の時だった。
入学したてのオレは、ある人に一目惚れした。
式の途中、壇上にあがったひとりの女。この学校の三年の生徒会長。
毅然として、壇上から新入生たちを見渡す。その姿は誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。
だけどオレには、それが無理してるように見えて仕方なかった。
式が終わり、各々のクラスに入って行く。
一年の教室は三階だった。その一番端がオレのクラスだった。
「なぁ」
後ろから声をかけられ、振り返る。そこには眼鏡をかけた、マジメ君が座っていた。
「俺、長野夏樹。お前は?」
そう言われる。
だからオレはソイツに向かって「長澤匠」と答えた。
「じゃ、匠だな、よろしく!」
マジメ君な長野夏樹は、意外と軽いヤツだった。この時コイツと長い付き合いになるとは思わなかった。
「匠!」
高校生活にも慣れて来た5月の半ば。
オレは夏樹に無理矢理教室を追い出されるように引っ張り出された。
「なんだよ、夏樹!」
オレの腕を掴みながら走り出す夏樹に、追い付こうと必死だった。
渡り廊下を走り旧館に行く。そしてその真ん中にある階段を駆け出した。
ガシャン……!
大きな音を立てて開く。
それと同時に外の空気を感じた。
「夏樹、いいのかよここ。立ち入り禁止じゃねぇのかよ」
オレはそう言って夏樹の背中を見る。すると夏樹は振り返りながら言った。
「いいじゃん。たまには息抜きしなきゃ」
そしてポケットから煙草とライターを取り出した。
「お前ッ!」
オレは小さく叫ぶとニカッと笑う。ガキが悪戯した時のような顔だった。そしてオレに差し出してくる。
「お前、キャラのギャップあり過ぎ」
そう言いながら、オレはその煙草に口をつける。初めての煙草は、上手いとは言い難かった。
そうやって屋上から煙草をふかして校庭を見下ろす。そこにいた女に目を奪われた。
如月凛子がそこにいた。
体育の授業だからなのか、赤いジャージ姿の如月凛子は、ダルそうに校庭を歩いてる。いかにも運動は苦手だっていうタイプだろう。
クラスの女子であろう女と微かに笑い歩いてる。
「あ、生徒会長の如月凛子だ」
オレの視線を追った夏樹は、ニカッと笑った。
「な、なんだよ」
夏樹の視線が痛かったオレは、思わずそっぽを向く。だけど夏樹の何か言いたげな視線は無くなることなく、オレを見てる。
「お前、如月凛子に惚れてんだろ」
そう言う夏樹はニヤニヤとしてる。それに対してオレは反論が出来なかった。
反論出来ないオレに向かって夏樹は、「そっか、そっか~」なんて言いながらニヤニヤしてる。
それが癪に障る。
「よりによってお前に気付かれるとは……」
頭を抱えるオレに夏樹は大声で笑い出した。
「近付けばいいじゃんか」
空に向かって煙草の煙を吐き出す夏樹。
夏樹の言う通りに出来たらどんなに毎日が楽しいか。
オレは如月凛子に近付けないでいた。
「そう簡単に行くか」
簡単な問題じゃない。
学年だって違う。しかも向こうは生徒会長。
この差は大きい。
「兄貴に頼んでみっか?」
夏樹のその顔にオレは驚いた。
「兄貴?」
そう聞き返したオレに、ニカッと夏樹は笑った。
「3年にいるんだよ、兄貴が」
夏樹に兄貴がいるとは思わなかった。
しかもこの学校の3年に。
「今の時間、兄貴サボリだな」
隣でそう言いながら、スマホを弄りだした。
『……んだよ』
スマホの向こうから不機嫌な声がした。
「なんだよ、兄貴。寝てたのかよ」
そう言う夏樹。不機嫌な兄貴に対して怯むことなく、夏樹は続ける。
「なぁ、兄貴。生徒会長と面識ある?」
その言葉に携帯の向こうから微かに聞こえる声。
『如月?』
「そう。オレのダチが話してみてぇんだって」
顔に似合わずそんな言葉を使う夏樹は、自分を偽ってる。この姿が本当の夏樹だって思った。
電話を切った夏樹は、ニヤと笑い俺に向き直った。
「明日の放課後、教室にいろって」
「は?」
そう言った夏樹にオレは不審な顔をした。
「だから兄貴が如月先輩を連れてくるってさ」
「んなこと……ッ」
「平気だって。オレの兄貴、顔が広いからさ」
結局、オレは夏樹に全てを進められて断ることなんか出来なかった。
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