第4話
「はぁ……」
自分の部屋のベッドに寝そべりながらため息を吐く。
初対面の子にあんなことを言われるなんて思わなかった。
しかも学校は違うみたいだから、何も知らない癖に言って来たことが腹が立つ。
「お姉ちゃん。ため息なんか吐かないでよ。こっちまで滅入るから」
2段ベットの下から声がかかる。
6畳一間。
狭い部屋に2段ベッドと学習机がふたつ。
そんなに大きくはないクローゼットがある。
もうずっとこの狭い部屋に妹とふたりで過ごしている。
いい加減うんざりとするくらい。
この歳になれば妹と同じ部屋って嫌になる。
だけどそれは無理な話で、だからこうして滅入ってしまってるのに、考え事もまともに出来ない。
手にしたスマホを眺めながら、あたしは匠くんを思う。
声が聞きたい……。
匠くんの声が今すぐに……。
だけどすぐ下に妹がいるから電話をかけることが出来ない。
会話を聞かれたくない。
こんな不安になってしまってるあたしを見られたくない。
「……匠くん」
小さな声で、スマホの向こうにいる筈の匠くんの名前を呼んだ。
会いたい。
今すぐに……。
「……もうッ!お姉ちゃんッ!」
気付くと2段ベットの上から顔を覗かせて、あたしの顔を覗いてる妹がいた。
「いい加減にしてよっ。そんなに彼氏に会いたいなら会ってくればいいじゃんかッ」
中3の妹はそうあたしに言う。
「な……ッ」
顔が真っ赤になる。
妹に知られてしまうくらい、分かりやすい態度を取っていたのかと思うと恥ずかしい。
「行けばいいじゃん」
ニッと笑ってあたしを見る。
「お姉ちゃん。あたしが気付かないとでも思った?」
それはあたしに、彼氏という人が出来たことを指してるんだろう。
「同じ部屋にいるんだもの。気付かないわけないでしょ」
ニコッと笑って言う妹は、とても可愛い。
あたしとは違うタイプ。
外見は勿論の事、性格も違う。
だから妹の周りには人が集まる。
羨ましいと思う。
妹がとても羨ましいと思う。
「行ってくれば?」
「だけど……」
今は夜中の0時。
まさか今の時間、家を出れるわけない。
「パパとママはもう寝たよ。あの人たち明日から軽井沢に旅行でしょ」
パチッとウィンクしてくる。
「もし起きてきたら、あたしがフォローしといてあげる」
そう言ってあたしをベットから下ろす。
無理矢理下ろそうとするから落ちそうになる。
「ちょッ……!待ってッ」
小さく叫ぶとニコッとまた笑った。
「もっと自信、持てば?」
「……なんでゆみにそんなことを言われなきゃいけないんだろ」
仕方なくベットから下りたあたしは、ボソッと言う。
「妹にそんなこと言われるの、癪だわ」
呆れたようなため息が出る。
でもそのため息は自分に対して。
こんな自分に呆れてしまう。
「だったら自分でちゃんと行動しなよ」
ゆみも呆れた声で言う。
妹に呆れられるあたしってなんだろ。
「お姉ちゃん、普段は自信満々な癖にそういうことはダメなんだから」
あたし、勉強とかは自信がある。
妹をバカにするくらい。
だけど恋愛に対しては全然ダメで。
匠くんと付き合えてるのに、全然自信なんかなくて、どうしようかと思うくらい不安になる。
「好きならちゃんと言いたいこと言った方がいいよ」
なんで妹に慰められてるんだろ。
「ほら。早く着替えて出かける!」
箪笥の引き出しから、ワンピースを取り出されて手渡される。
言われるままあたしはそれに着替え、軽くメイクをしてそして家を追い出される。
「帰って来る時、メールして。念の為ね」
なんてウィンクしてくるゆみに見送られて、夜道をひとり歩き出す。
手にはスマホ。
そのスマホを見つめながら、どうしようとまだ迷っていた。
匠くんに電話して迷惑じゃないかな。
だってもうこんな時間だし……。
でも声が聞きたい。
顔が見たい。
震える手の所為で携帯が震えてる。
なかなかプッシュボタンを押せないでいた。
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