第3話
「お~い!こっちこっち」
目的地の前にいる夏樹くん。
そしてその隣にいるのはスラッとした長身の派手めな女の子。
またタイプが違う。
「初めまして」
ニコッと笑った彼女。
その笑顔につられるように笑う。
夏樹くんの彼女は麗と言った。
名前もそうだけど、とてもキレイな子。
女のあたしからしても見惚れてしまうくらい。
「……匠くん」
小声で匠くんに話しかける。
「ん」
「夏樹くんって面食い?」
「まぁな」
あたしを見ないでそう言う匠くんは、いつものことと思ってるのか驚きはしない。
だけどあたしとしては本当に驚くようなことで……。
ここまでキレイな子を連れてくるとは思わなかった。
この子は派手にしてるんじゃない。
元々、顔の作りが派手めな子なんだ。
掘りが深いというのだろうか。
ううん。違う。
メイク映えしそうな顔。
うん。
その言葉が合うような気がする。
「まゆさん?」
麗さんがそうあたしに声をかける。
「行きましょ」
あたしの横に立った麗さんはニコッと笑った。
あたし達が向かった先は更衣室。
そう。
あたし達、プールに来ていた。
「毎日暑いね」
更衣室に入ると、そう言ってきた麗さんの方を見る事が出来なかった。
長身の麗さんは細い身体なのに、胸がある。
あたしはごく普通の体型。
胸もあるわけじゃない。
こんなんじゃ匠くんに厭きられちゃうんじゃないかって不安になるくらい。
そういえば如月凛子先輩も、スタイルがいい人だった。
「あの……、まゆさんと匠くんはどこで知り合ったの?」
ニコッと笑って話す麗さんは、悪気があるのかないのか分からない感じで言ってくる。
「あ……、クラスメート。新学期が始まって隣の席になったの」
ほんとはそのずっと前から匠くんの存在は知ってたけど、なんてことは言わなかった。
「なんか匠くんのイメージに合わないんだもの」
麗さんが言ったひとことに傷付いた。
そんなの、あたしが一番よく知ってる。
だから毎日傷付いてる。
それに気付かないフリしてる。
「さ。行きましょ。待ってるわ」
またニッコリと笑って歩く麗さんは、雑誌のモデルでもしてるのかってくらいスタイルが良かった。
◇◇◇◇◇
「まゆ」
更衣室から出ると目を細めて笑う匠くんと、その隣には麗さんに釘付けの夏樹くんがいた。
あたしは麗さんと比べられるんじゃないかって思って、恥ずかしくなった。
こんな寸胴なあたしと、一緒にいたくないんじゃないかって思った。
「さ。行くか」
だけど匠くんは、あたしの手をちゃんと握って歩いてくれた。
それがとても嬉しかった。
その日の帰り。
匠くんとふたりになった時に言われた。
「何かあった?」
「え」
「麗ちゃんと」
「何が」
「お前、あの子とまともに話してないだろ。人見知りでもないのに」
匠くんはちゃんとあたしを見てくれていた。
そのことが嬉しくなった。
「何か言われた?」
電車に乗って地元にまで戻る途中、匠くんはあたしをじっと見てくれていた。
「……ん。イメージ、合わないって言われた」
黙ってられなくて、ちゃんと話してすっきりしたくて言った。
そりゃ、匠くんの中にいる如月先輩に勝てるなんて思ってもないけど、会ったばかりの人にそんなこと言われたくなかった。
「イメージねぇ。じゃ、どんなイメージなんだろ」
そう返された。
どんなイメージ?
それはとてもキレイな女の人じゃないの?
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
言ったら虚しくなるだけ。
悲しくなるだけ。
「会ったばっかりなのに勝手なイメージつけられちゃ堪んねぇよ」
そう言ってあたしの頭をクシャと撫でた。
あたしが思ってること、分かっちゃったのかな。
匠くんの手がとても優しく感じた。
自信がないの。
あたしには自信が。
匠くんの彼女でいていいのか分からない。
あたしが彼女でいいのかな?
考えても答えなんか出ない。
あたしが彼女でいることを、みんなが不思議に思ってるくらいなんだもの。
いつも廊下で擦れ違う度に「なんでこんなヤツが」って顔をされる。
あたしと一緒にいるのにも拘らず、知らない女子たちが匠くんに「こんな子やめてあたしと付き合おうよ」って言って来る。
そのくらい、あたしは匠くんといる価値がない。
そんなだから、今まで友達と思っていた子たちが離れていった。
代わりにあたしの周りには、匠くんと匠くんの友達がいる。
休み時間一緒に過ごすのは匠くんと夏樹くん。
そしてその他の匠くんたちの友達。
その中には女子は数えるくらいしかいない。
その女子たちも本音はどう思ってるのか分からない。
匠くんはモテる。
信じられないくらいに──……。
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