第2話

 新島まゆ。

 これがあたしの名前。

 あたしには1年の時から思ってる人がいた。



 長澤匠。

 それが彼の名前。



 1年生の時、生徒会長である如月凛子先輩の名前を、恥ずかしいくらいに叫んでいたことがあった。

 それが彼を初めて見た時だった。

 如月先輩はとてもキレイな先輩だった。

 近寄りがたいタイプ。

 外見的にそうだ。

 けど、如月先輩の周りにはたくさんの人が集まる。

 マジメに生きている人も、そうでない人も同じように対応するからだと思う。



 ふたりが付き合い出した時、誰しもが驚いた。

 あの如月先輩が年下のちょっとヤンチャなヤツに……って。



 でもすぐにその考えは改められた。

 如月先輩の隣にいるのが当たり前ってくらいに、ふたりの姿はお似合いだった。

 そんなふたりの姿を見てるから、あたしは自分の気持ちを押し殺した。

 言わないつもりでいた。

 


 でも。

 2年になってその考えは覆した。



 同じクラスになったあたし。

 偶然にも席も隣同士。

 話すことが出来なかった状況から、話すことが出来る状況に変化した。

 毎日が楽しかった。

 嬉しかった。




 だからあたしは言った。

 自分の気持ちを。

 言わなきゃいけないって思った。

 こんなチャンスないって。



 てっきり断れると思ったのに、彼の口から出た言葉は、あたしを有頂天にさせた。

「新島。オレ、まだ凛子を忘れられてねぇんだ。それでもいいなら付き合おう」

 それでもいい。

 初めはそう思っていた。

 それでもいいからこの人と一緒にいたい。

 隣にいたいって。




     ◇◇◇◇◇




「まゆ」

 って呼び方からへと変わって1ヶ月。

 夏休みに入っていた。



「待ったか」

 待ち合わせの駅前でが言う。

「匠くん」

「んなとこで本なんか読んでるなよ」

 手にしている本を指差し呆れた声を出す。

「いいじゃないの」

「ほんとにマジメなヤツだなぁ」

 本をバッグに仕舞うあたしを見て笑う匠くんは、ポンとあたしの頭に手を置いた。

「行くぞ。夏樹たち待ってる」

 改札を通り抜けて前を歩く匠くんの後姿を追う。

 夏休みだからか、駅周辺には学生が多かった。

 匠くんと付き合うようになってから、あたしの周りが様変わりした。

 学校では匠くんと匠くんの親友の夏樹くんと常に一緒だった。

 そしてその夏樹くんの彼女とも一緒に遊んだりもした。



「今度の夏樹くんの彼女ってどんな子?」

 あたしが知ってる限り、今回の彼女は3人目。

 タイプも全く違う。

「前回の子はマジメな子だったよなぁ」

 匠くんはあたしを見て言った。

「マジメはマジメでもまゆとは違うよな」

 目を細めて言う匠くん。

 そんな匠くんを見てはいつも思ってる。

 いつも聞きたい思いを押し殺してる。



 如月凛子先輩のこと──………。







 聞きたいのに聞けないのは告白した時に言われた言葉の所為。


 


 それがあたしを踏み留ませている。




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