闇の果て

 「ーーー・・・あのーー・・」




 「ーー・大丈夫ーー・・・・ーー」


 


2度続けて、誰かが私を心配する声が聞こえた。うっすらと。




 「・・・・・」





しかし次には聞こえなくなったのでどうしたのかと思い、私は意識が朦朧とする中

無理やり体をせかせかと動かし目を擦った。塊のような何かが目にこびりついているようだ。

 

 (なんだろう…)



私が必死になっていると遠くの方からケラケラと笑う声が聞こえてきた。


 「あのねーちゃん、見て!」


 「わああ!泥だらけじゃーん!」


 「顔面泥だらけ!!」



 (泥だらけ…?)



 「ぎゃっ!!」


気づけば体中いや顔中も泥だらけではないか。

私は血相を変えて体の泥を落とそうとするがなかなかこびりついて落ちない。



 (どうして・・・どうして泥が・・・)




ーーどうやら私は畑の中で溺れていたようだ。慌てて周囲を見回すと一面畑だった。頭が混乱する一方でさっさと泥地獄から抜け出したいと思った瞬間、真上から青年の声が聞こえた。



 「俺が手伝うよ。手を出して」



どうやら「大丈夫?」のあの声の正体はこの青年だったらしい。

しかしながら、私は考える余裕もなく、私は早く泥から抜け出したい一心で青年に手を伸ばした。



                 ✧




ー数分後。

やっとの思いで泥地獄から抜け出した私はすぐさま目の前で救ってくれた

青年にお礼を伝えた。


 「本当にありがとう」


 「俺は全く心配ないけど、あなたは大丈夫?」


 「え・・・」


よく見れば私の服は泥だらけだ。ついでに鏡が無いから分からないが

あの子どもたちがからかってきた時点で顔も立派に泥だらけなんだろうと

思うと私は小さくため息をついた。


 「あの…良ければだけど」


 「ん、何か?」


 「俺の家来る?それ、汚くてどうしようも無いでしょ」


 「え、いいの?」


 「うん。どうせ、家帰ったって母さんは居ないと思うし」


 「やった。ありがとう!!」


私は思わず嬉しさで頬を赤らめた。


 (よかったあ。ここ見知らぬ場所だし、今すぐ泥を洗えるだけで最高すぎる!)


青年もにこっと微笑み、こっちだよとわたしを自分の家へと案内していった。



                 ✧



思えば、不思議なことばかり起きていた。

暗黒の世界から目覚めたと思ったら私は気づけばどこかの知らない畑に

いた。そして全く知らない青年に助けられ、田舎のような住宅街にきては

なんだか懐かしいような気もしたが気の所為であろう。

そして何よりも驚いたのが、浴槽の蛇口が熱いお湯と冷たい水でそれぞれ

分かれているのだ。


 「わたしが生きていた時代よりも古い気がする・・・」



しかし、ここの家の外見はただの田舎の木造建築で全く江戸時代のような

あけすけの古めかしい家ではないのだ。いたってつい最近見ていた江戸時代のアニメのような感じは全くしなかったからこそ何かおかしいと思ってしまう。


 「うーん…」


 「どうかした?」


相当唸っていたせいか、私の声はかなり浴室の外まで漏れていたらしい。

青年が気になって声をかけてきたようだ。


 「いいえ…大丈夫!ごめんねーただ、なんか懐かしいなあって思っただけ!」


 「懐かしい?ここが?」


 「うん!なんか昔来たようなそんな気がして!」


昔来たようなそんな気がしたが、気の所為だと今度はしっかり確信した。

 

 (あり得ないわ。それかあったとしても転生して田舎に来ちゃったとかだと思うし)


通常転生したとしても過去にタイムスリップとかそういう話は聞いたことがなかった。だとしても死んでからまた暗黒の世界にずっといるよりはこういう場所に

いるのも悪くはないと思った。

とにかく私ー莉々華は現世のあの息苦しい生活には戻りたいとも考えていなかったのである。



                 ✧


  

シャワーで汚れた泥を流し終えてきれいさっぱりになった私はまずいことに気がついた。


 「わたし、服が無い・・・?」


確かに先程の泥だらけの服ならあるが、それをもう一度着るなんて馬鹿にもほどがある。とりあえずタオルで体を巻いて、どうしようかと考えているとそれを察したのかひとつドアの向こうから青年の声が聞こえた。


 「あの、前に弟がもらってきた服があるんだけど、どうかな」


 「それって…男の子用じゃなくて…?」


 「うんうん、女の子のだよ。白いワンピースなんだけど」


 「え!!いいの!!?」


思わず私は白いワンピースという言葉に反応してドアを開いてしまった。


改めて見た青年の顔は白く、澄んだ大きな黒い目をしていた。その白い顔は

徐々にピンク色に染まっていく。


  「「あーーー・・・・」」


やがて事の重大さに気づいた私は青年を見るや否や、再びバンッと扉を閉めて

タオルの中に身を縮め、顔を埋めた。


 (最悪…てか、なんでこんな破廉恥なことしたの…私…)


青年に合わせる顔がない。私は恥ずかしさと後悔で顔が真っ赤だ。



・・・・わたしがしばらく黙っているとコトンっと小さな音がした。



気になった私は、人の気配が消えたのを確認し、扉を開いた。そこには丁寧に畳まれた白いワンピースが置かれていた。私は何かお礼しなくちゃないと思い、青年に何をあげようかと考えながらワンピースを広げる。

すると、コロリと何か音をたてた。


ふと地面を見ると不思議な胸章が落ちていた。


















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