過去への回廊
平日なのに車や人が普段よりも少ない。そして騒音も
いくらか落ち着いているように感じられた。
ーそれがなにかの警鐘だったのかもしれない。
莉々華はそんな時に限って鈍感だった。
✧
薄暗くどんよりとした曇り空を見、スクールバックを腕に
かけなおし、信号機が青になったのを確認し歩きだそうとした瞬間ー
突然、目の前に黒い物体が現れた。
心臓がドクンッと大きく跳ねる。
(ト、トラック!?)
莉々華がトラックだと気づいたときには時すでに遅しだった。
「ドオン!!!」
お腹の辺りにとてつもない痛みと衝撃が襲いーーーーーーーーー・・・・・その瞬間莉々華はトラックに飛ばされていた。
✧
パノラマのようだった。目の前がぼんやりとしていたがやがてはっきりとした人や物を写し始めた。
(んん…これって…)
小さい莉々華と懐かしい友人たちが浮かび上がってきた。
(私の過去の記憶!)
そう、それは小学生の時の自分だった。
✧
ー小学生。
担任の先生が教室を走る莉々華を怒っている。
「こらー!!冬森さん!!走らない!!」
「はいー!すみません!!」
小さくてハチャメチャでもにこやかに笑う自分に莉々華はくすりと微笑んだ。
ー場面は変わって、中学生。
隣の席の男子にテストの点数を見られたことでお家でずっと泣いていた。
「どうして…なんであいつ見たの?わたしの点数…わたしって!」
ずっと泣き叫ぶ自分を妹や母がしきりに慰めていた。
あの男子酷いわ、と莉々華はひとりでぼやいた。
ー高校生。やっとできたたくさんの友人に笑いかける自分。しかし、
進学校なこともあり勉強に忙しく頭を抱えていたが自分は時折周りを観察しているように見える。
ーと高校生からの場面は何度も切り替わり、周りの人と点数を比べて負けていたことからもがく自分や2年からのクラスメイトとは上手くいかず親に責める自分、下校中に足を怪我し、周囲の目を気にして恥ずかしがりながら痛みをこらえひたすら歩く場面ーと
印象的な場面ばかりが繰り返されるようになった。
(なんだか黒歴史を掘り起こしているような…)
しばらくして場面がふと止まると母親に怒られ、
うなだれる自分がいた。
(これってつい最近の出来事…)
母の怒りの声と莉々華の泣きじゃくる途切れ途切れの声が聞こえる。
「ねえ、あなたはどこを見ているの。父さんを見なさい。
彼は周りの人なんか見ていなかったんだから頑張れていたんだよ」
「パパ‥?」
「そうよ、パパはちゃんとずっと前しか見ないで勉強してたんだから」
「それって悪い性格じゃん!ずっと前しか見ていないし!
ママにパパもわたしのことなんてわからない!!もういいよ!」
「ちょー待ちなさい!!」
ピシャリ。
莉々華がドアを強く閉めたところで記憶は途切れた。
✧
パアンッと弾ける音が耳元で聞こえた。
それはまるで記憶が途絶えて弾けた音だった。
それとも記憶ではなく別のなにかであろうか。
目の前が急に暗くなり冷たい風が莉々華の体を通り抜けていった。
途端に光は徐々に消えてきたので莉々華は慌ててその光を
掴もうとしたがするりと彼女の手を通過していく。
真っ暗になった辺りをしかと見回すと莉々華の足元のあたりから
ゴボゴボとなにかが音をたてていた。
「何…?」
手に冷たい水のような物がかかったので見ると黒いなにかドロっとした
液体だった。そのドロっとした液体は徐々にかさを増しやがて莉々華の
太ももあたりまでー気づけば肩の高さまでいき、莉々華は身動きが
だんだん取れなくなってきた。
「溺れる…」
そんな危機感とは別になぜかもうどうでもいいやという謎の思考が
莉々華に生まれていた。
(溺れたってもう一回死んでるし…
それにもう勉強したくないから戻りたくない…
戻ったって、ガミガミ言ってくる親がいるだけ)
どす黒い液体が莉々華の口の中に流れ込んだ時、
莉々華は意識を失った。
★応援してくれた方、フォローくださった方、本当にありがとうございます!
とても励みになりました!まだまだ書き始めたばかりの未熟者です!
なにかご忠告等ありましたら、お願いします!また、いいねやフォロー等も
できればよろしくお願いします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます