第十二話

一方、佐伯は荒池は頭を悩ませていた。


「どーすんだ?稲島死んじまったらまーた足取りつかめねえじゃねえか」

荒池は死んだ目で机を片付けていた。


「せっかく太一と香椎が命張ってくれたのに…」

佐伯は今の状況に苦笑いしていた。


二人とも整理されてない狭いオフィスで、今後の展望に頭痛がしていた。


「稲島をしょっぴけたのは良い。良いんだがこれじゃここから何も繋がりやしない」

「せっかくつかみ取った糸をハサミで切られた気分ですね…。」


すると、佐伯は思い出したかのように荒池に質問した。

「……そういや麗美と加藤は?」


荒池は面を上げた。

「麗美は今桐谷さんと稲島のことについて話しいて、加藤は今江道さんに呼び出されてる」


「香椎は?」

「巻耳さんが看てる まだ目を開けないらしいが……」


「……太一のことについては。」

佐伯の顔が曇った。


それを聞いた荒池は顔色一つ変えず、まったく別の方向を見た。

「……お前、わかっていってるだろ?

…メタリックは殉職した団員を個人で悼まねぇって。」


佐伯は数秒間黙り込んだ後、首を上げ、笑顔を見せた。

「…そっすね。おちおち弔ってたら国の治安は守れませんから」

しかし、その笑顔はどこか寂しそうだった。


「…かく言うアンタの妹はどうなんだ?」

荒池も間を開けた後に佐伯に質問した。


「え?あぁ、アルの事ですか。あいつならもう仕事に行きました」

「素晴らしい。メタリックの一員らしいメンタリティだ」


すると、佐伯の顔がまた曇った。

「…ただ。」


荒池はその様子に首を傾げた。

「ただ?」


「…ただ、しばらく笑顔が戻ってない気がします。いざ笑ってもどこか寂しそうに微笑んだり…」


荒池はくんでいた腕を伸ばした。

「…十代の少女に、やはり死体はキツかったか。」

「それくらい、単純な理由だったら良いんですけどね。」


荒池はその言葉の真の意味が分からなかった。だが、今迂闊に話していい状態じゃないことを汲み取った。


すると荒池は机を片付け終わると、立って扉まで歩きオフィスを後にしようとしていた。

「…じゃ、俺行ってくるから。」

「行くってどこに?」

「…あぁ、俺緊急招集されたんだよ、会議だよ。」



――――――――――――――――――――――

荒池は3階にある会議室にへ向かった。


荒池は気怠げに鉄扉をコンコン、と叩き会議室へと入った。

会議室は四畳半程度の狭い部屋で、机も組み立て式、椅子もパイプであった。

「失礼しま〜…」


荒池がそう言いかけた瞬間。

「おい、遅えぞ、タケル!」

会議室から大声が聞こえた。


「すまん、桐生。ちょっと部下と話し込んじまってな」


桐生と呼ばれたやや大柄な男は、肌は浅黒く金髪で、目は垂れ目な陽気な男である。年齢は荒池より一回り若い。


「まぁ〜ったく、荒池さんはそんな体たらくだから『昇進』ができないんでしょ?」

十代後半でメガネを掛けた三つ編みの少女がやれやれと言わんばかりに言った。


「今の言葉で『傷心』はしたよ」


荒池の言葉に桐生は反論した。

「嘘つけよ。お前がこんなガキ一人の言葉にメンタルやられるタマなわけねえだろ?」


桐生は三つ編みの少女を指差した。少女は憤った。


「もう!桐生さん、ガキ扱いやめてくださいって言っでしょ!?」

「おーっと、ごめんごめん。そうだな、大人顔負けの『神童様』だもんな〜」

「バカにしてるでしょあなた!」


2人が大声で応酬を続けていたその瞬間。

「うっせぇぞテメェらッ!」

会議室中に大声が響いた。


「ここは会議の場だ、私語は慎めッ!」

顎髭を蓄えた短髪でふくよかでありながら筋肉のある男が二人を叱った。


「すまん、南宮ナムグン!そうだな、ここは罵り合いする場じゃねえな!…おい、神野、お前も謝れよ!」

桐生は半笑いになりながら少女を見て言った。


「ちょっと!なんで私もなんですか!」

神野と呼ばれた少女は机をバンと叩き立ち上がって反駁した。


また始まった小競り合いに荒池は耳を塞ぎながら大声で言い放った。

「あ〜あ〜あ〜ッ!そういうとこだろ!?

すぐ喧嘩すっから南宮にも注意されるし、昇進できないんだろ!?

まともに生きてりゃこんな所で燻ってねぇっつーの!」


「荒池さん、おやめください その言葉は私にも効きます」

南宮は荒池の言葉に半泣きになりながら言った。


「ごめん(´・ω・`)」

荒池は申し訳なさそ〜に謝った。


すると加藤は会議室を見渡した。

「…というか、遅れたとか言う割には人数少ねえな、みんなも遅刻か?」

「いや、これで全員だよ」

「こんなメンツで会議すんのか?珍しいな…」

桐生の言葉が意外だったのか、荒池は納得言ってなさそうに答えた。


「選ばれし者たちみたいで気分上がるぜぇ↑↑」

桐生は言った通り気分が高揚させた。


「なんてガキな反応…」

南宮は大きいため息をついた。


「…でも俺、集められた心当たりあるんだよな…」

「? 何、心当たりって…」

桐生が荒池の言葉に引掛ったその時、会議室の扉が勢いよく開いた。


そこにはアフロヘアーに特徴的なモミアゲを生やした中年の男が立っていた。彼らの上司、金田だった。

「うぃ〜っす!可愛い部下たち、元気してたぁ〜?」

桐生を圧倒する陽気さに四人は困惑しながらも絶望していた。めんどくせえ上司だからである。


それを見た金田は荒池の肩を組んだ。


「なぁーんだよ、そんな暗い顔しちゃってッ!」


荒池は困惑していた。

「…あの金田さん、俺、一応部下死んだ身なんですよ。あんましそんな気分になれなくて…」

「何言っちゃってんの〜 人はいずれ死ぬ!」

金田は荒池の胸を笑いながら叩いた。


「…はぁ~、よりによって金田さんかよ…」

桐生は項垂れた。


「…で、なんでなんです?」

荒池は金田に訊いた。


金田はキョトンとした。

「? なんで…っと言うのは?」

「いや、なんでこのメンツなのかなって…」


金田は意味を理解し、手をハンコを押すようにして笑顔に戻った。

「あ〜そのことね!正味荒池以外はテキトー!」

「え゙っ」

桐生は汚い声を出した。


荒池は更に金田に訊いた。


「…そんで、なんで僕が必要なんです…?」

「稲島の一件だよ!」


「あっ!」

荒池は金田の言葉に大きな声を出した。荒池が言おうとした『心当たり』そのものだったからである。



「荒池くん、僕は今君だけでなく『君の部下』にも興味があるッ!」

金田は畳み掛けた。

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アジェンダ・メタリック! 兄諮濫也(あにはからんや) @AnyRan

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