本物

「あの、それで、“ソレ”ってあの子のことですよね?どうして変な呼び方するんですか?」

「やっぱ嬢ちゃん初参加だったか!だったらまだアレに会ってないな」


マサさんは考えるようにブツブツ言い始めた。


解決したのか私の肩に手を置いて


化け物ソレに会ったら絶対逃げろ。けど、絶対アレにだけは会うな!」


マサさんはすごく親切なのに説明の仕方……大雑把すぎる。


「あの、マサさん」


他にも質問しようとすると


「おっと。もう時間だ」


突然、マサさんの体が光り始めた。


体というより首筋………かな?


「いいか。このことは誰にも言っちゃいけねぇ!もし言っちまったら嬢ちゃんの……」


肝心なとこは聞けずじまいでマサさんは消えた。


その数秒後、私も光り気付けば本屋の角に立っていた。


看板は手書きだし見慣れたら街並みがここは正真正銘のS市。


「え!?」


鞄の中で鳴っていた携帯を開くとK市に飛んだ時間から全く進んでなかったのだ。


あの子とは別物の恐怖が全身を凍りつかせる。




〜♪〜




二度目の着信は私の手の中で。

相手はコウ。


さっきのこともあり本人かどうか疑ってしまう。


電話に出て楽しそうに「見つけた」なんて言われたら精神的にも参りそうだ。


コールが切れるとすぐ二回目がかかってきた。


私は震える指で通話ボタンを押して耳にあてた。


「も、もしもし?」


震えは指だけではなく声にも表れた。


「俺。コウだけどさ」

「知ってるよ。どうしたの」


おかしそうに笑ってみせたけど、顔はかなり引きつってると思う。


「今日の、安藤が言ったことなんて気にすんなよ」


そういえば私死ぬって言われたんだった。


この電話がなかったらきっと忘れていられた。


あれ…………?


もしかして安藤さん。こうなること知ってたの?


K市に飛ばされてあの女の子に狙われると。


そんなわけ……もしそうなら教えてくれなかった理由は?


そこでマサさんの言葉を思い出した。


話してはいけない。話してしまうと………


その続きは“死”


安藤さんは言葉を選びに選んだ結果、あんなこと言ってくれたのかもしれない。


「ヒロミ?どうした?」


急に黙り込んだ私を心配してくれてか、焦ったコウの声が届いた。


考えることはない。


ここはS市でコウは本物。そして、私は生きてる。


その事実が不安を刈り取ってくれた。


体に染み込んだ恐怖はあるけど、それを忘れてしまえるほどコウとの話しは盛り上がった。

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