ここはK市

諦めてかけたその時、前方にメガネに三つ編みもいった典型的な地味な女の子がチラシを持ってウロウロしていた。


あの子にしよう。歳も近そうだし。


わずかな希望にすがるようにあの子の元に駆け寄ろとした瞬間、よくわからない光景が目に飛び込んできた。


150メートルぐらい前方の男の人の首から大量の血が吹き出て、それをやったのが忘れもしない、あの青い瞳の女の子。


男の人は地面に倒れ込んだまま動かなくなった。


おかしい……。


なんで誰も悲鳴を上げないの?


なんで救急車や警察を呼ばないの?


なんでみんな何事もないように、普通にしてるの?


ベットリ血のついた口角を上げ不気味に笑った。


あの子だ。コウのふりをして私と話したのは。


直感でそう思った。


あの子は笑ってたまま一歩一歩私に向かってくる。


恐怖のあまり足がすくんで動けない。


あの子との距離が50メートルをきった。


──私もあんな風に、首を喰いちぎられて死ぬの?


死にたくないと思えば思うほど、凍りついた体は言うことをきかない。


「おいなにボサっとしてる!!早く逃げるぞ!!」


野太い声が私に言った。


そのあと腕を掴まれ無理やり走らされる。


タンクトップを着た男の人は一瞬だけ振り返って、走るスピードを上げた。


体を動かすのは好きなんだけど、走るのは苦手。


特に人に合わせて走るのが。


この人の必死な表情がどれだけマズい状況かものがっていた。


いくつか聞きたいことはあるけど、口より足を動かす。


「はぁ……はぁ……。も……大丈夫……ですか?」


激しく息を切るせながら、全く息を切らせず周囲を警戒するタンクトップさんに聞いた。


「大丈夫………とは言えねーな。化け物ソレは、いつどこから現れるかわかんねーからな」


──それ……?


表現の仕方が引っかかる。


それって、つまりはあの女の子だよね。


「そういや自己紹介がまだだったな。俺は最上正吏ってんだ。マサって呼んでくれ」

「マサ……さんはここがどこか知ってますか?」

「K市だ」

「K市!?そんなはず……だって私S市にいたんですよ!」


私のいたS市とK市じゃどんなに車を飛ばしても三時間はかかる。


そんな私の考えを見透かしたようにマサさんは用意していたであろう答えを投げかけた。


「S市にこんないかがわしい店が、あるか?」


私は言葉に詰まった。


その問いかけの意味こたえをわかっているからこそ信じられない。


「嬢ちゃん。いまはまだ信じなくていい。でもな、化け物ソレからは何がなんでも逃げ切れ!」

「は…はい!」


あんな光景を目撃したからには私に選択肢はない。

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