第8話 事態の全容
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最後に重要なお知らせ
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そこはいつものビルの屋上。
俺が普段使っている武装を収納しているビルだ。
武装を収納している、とは言ったが普通の高層マンションの一室である。
ダンジョンハンターとして使う武器はどれも嵩張るから、こうしてダンジョン近くのマンションの一室をまるまま貸し切ってこうして武器を収納しているのだ。
俺は夜風に髪をなびかせ、片足を立てて座っている。
隣には木隠さんが立っている。
俺は先ほど千ヶ織さんとの会話の中で、彼女の首についていたゴミが気になったので手に取り、手拭きの中にくるんだ。
「ちょっと見てほしいゴミがあるんだが……木隠さん、どう思う?」
そして、先ほど千ヶ織さんと別れた後に持ち帰った手拭きを木隠さんに見せる。
「うーん、これは……粉々になっていて見ずらいですが、何か機械のように見えますね」
「だろ?俺も気になってクレイに分析させてみたんだ、結果は何だったと思う?」
「んー、GPSとかでしょうか?」
「いや、違う。魔物用の誘導器だったんだ」
「誘導器!?誘導器って、確か魔物に取り付けて、罠に誘導するためのアレですか?あれってハンターが安全に狩りをするために使用するものですよね、なんでそんな物を持ってるんですか?」
「ああ、これはな、さっき木隠さんも見たとと思うけど、あのクラスメイトの首に取り付けられていたんだ」
「……!?」
なぜあの時千ヶ織さんはヘルドラゴンなんていうS級モンスターと戦っていたのか。
あそこは20階層で、本来あのようなモンスターはいないハズ。
だのにあそこにいた、というのはこの誘導器によってヘルドラゴンが彼女の方に誘導されていたという事だろう。
「なあ、これを聞いて何を考えた?」
「……そうですね、暗殺を考えました」
偶然あの誘導器が彼女の首についていたとは考えずらい。
誰かの手によって張り付けられていたという線の方がまだ考えられる。
つまりはそういう事だ。
千ヶ織さんは何者かの手によって暗殺されようとしていたという事だ。
目を閉じ、これまでの事を思い出す。
2か月前、仙場悠馬は千ヶ織優香を校舎裏に呼び出した。
あの時、仙場悠馬は「最近BLOCKとかいう組織のリーダーが電槌の重要取引情報や実験情報をリークしてるって噂を聞いたんだ」と言った。
しかしながら先ほど千ヶ織優香の口からは「この胸のUSBは私のお父さんがBLOCKのリーダーとして残してくれた大切なものなの」という言葉が放たれた。
ここから察するに、彼女の父親はとっくに死んでいるという事だろう。
両者の発言には、明らかにズレがある。
前者の発言の中では千ヶ織優香の父親は生きており、後者の発言の中では死んでいる。
どう考えたって食い違っている。
ここから考えられることは、誰かが仙場悠馬に偽の情報を教え込んだという事だ。
学園の人間か、あるいは外部の人間か、どちらかは分からないが誰かが彼に偽の情報を教え込んだのだろう。
誰がどのような意図をもってそのような事をしたのかは分からない。
しかし、ある程度推測することもできる。
確か、あのクソストーカー、三日月が俺に教えてくれた情報によると電槌内で、仙場派は他の派閥と対立しているとの事だ。
そして千ヶ織さんとの先ほどの会話から、彼女は父親が残した電槌の悪事のデータが保存されたUSBを大切に取っておいていているとの事。
ここから考えると、仙場派の対抗組織が、仙場悠馬と千ヶ織優香が結びつくことにより彼女が所持するデータが仙場派に渡ることを阻止しようとしていて、そのために仙場悠馬が千ヶ織優香と対立するために噂を流したという事が察せられる。
なるほど……なんとなく事態の全容が分かった。
「彼女を暗殺しようとしたのは電槌だ。それも仙場派の対抗組織」
「へえ、なんでそう思ったんですか?」
「まあ、あくまでも推測に過ぎないが、ここ2か月のクラスメイトの発言からなんとなく分かった」
そして今俺が考えたこと説明する。
説明するには少々長い内容となっているため、全部説明するのには中々に骨が折れたが、全て説明し終えたころには木隠さんは納得したという顔をした。
「確かにその推測は筋が通ってますね。まあ、推測の域を出ませんが……」
確かに推測の域を出ないと言われれば確かにそうだ。
だが、しかし、だ。
BLOCKという組織が何なのか知れば、この推測は確信へと変わるだろう。
「クレイ、目を覚ませ。BLOCKという組織について調べてもらいたい」
《BLOCKという組織についてですね。了解しました。
データバンクにアクセスします……ヒット
マスターの網膜にデータを映し出します》
目の前に、纏められたデータが映し出された。
組織名:BLOCK
設立組織:テックボルト,対抗組織対策委員会
組織目標:テックボルトのライバル企業に対し、不利益となる情報を集めリークすることによりライバル企業の市場からの信用を下げる。テックボルトの主なライバル企業は”電槌”であるため、BLOCKが主にターゲットとする組織は電槌である。
現在:リーダーの暗殺により組織は解体
映し出された情報を木隠さんとシェアする。
「ふむふむ、これならマスターの推測は確信に変わりますね。千ヶ織優香を暗殺しようとしたのは、電槌という事になりますね」
「ああ、そうだ」
「で、どうするんです?千ヶ織優香を助けるんですか?」
「……どうしようか悩んでる」
千ヶ織優香を助ければ、間違いなくその過程で俺は目立つことになるだろう。
「はあ、そういえばそうでしたね。マスターは今世紀最大の意気地なしでした」
「ああ、そうなんだ。俺は今世紀最大の意気地なしなんだ」
「……全く、いつまでそうして目立つことを極端に嫌っていらっしゃるつもりですか」
「」
「それに、いつまでマスターは正体を隠しているつもりですか?いつかはバレますよ?」
「そんな事、知っている」
唇を噛んだ。
俺自身、このまま一生正体を隠せるとは思っていない。
そんな事は分かっているさ。
それに今俺が動かなければ間違いなく、千ヶ織優香は暗殺される。
ヘルドラゴンを誘導してダンジョン内で暗殺しようとしたのはまだ穏便な方だ。
電槌は何でもやる。
このまま行けば学園内に軍隊を送り込んで、クラスメイトも巻き添えで千ヶ織優香を有無を言わさず殺すなんてこともするだろう。
そして事故として扱い隠ぺいする。
それがこのまま行けば辿り着く未来だ。
俺が行動しなければ人が死ぬのだ。
「マスターは電槌という企業の正統なる継承者です。この事実からは逃げられませんよ?」
「……」
「マスターには誰かを守れる力があります。ですが、このまま行動しなければ一生後悔しますよ?」
「……ああ、知ってる」
きっと、木隠さんは俺の正体を明かし、電槌の暴挙を止めろと言っているんだろう。
確かに、俺には電槌の暴挙を止められる力があるだろう。
俺は月を見上げた。
そして美しい月を見て、目を閉じる。
▽▲▽▲
今から200年前。
電槌は工具を製造する企業だった。
それから家電器具を製造する企業へと転身し、順調に精密機械の製造ノウハウを蓄えて行った。
やがて、電槌は日本の政治情勢が変わりゆくなかで主な事業を軍事産業へ移行させた。
軍事産業事業は大成功し、巨大企業へ成長してゆく。
そして、今から10年にダンジョンが出現したことによって魔力技術という新たな技術ツリーが出現し、電槌の軍事産業事業の成長に拍車をかけた。
今では世界規模の戦争商人となり、その財産は数百兆に昇ると言われる。
巨大軍産複合企業と化した電槌はいつしか帝国と呼ばれ、”帝国”の名の通り最高経営責任者はまるで皇帝のように扱われ、代々皇位の座を子孫で争っていた。
俺の母さんは、皇位の継承権を持っていた。
ダンジョンが出現する前からとある研究課の代表として働いており、大変優秀な人だったらしい。
そして、同じ職場の人間と結婚し、こうして俺が生まれたと言う訳だ。
幸せな幼少期だった。
両親は仕事のせいで忙しかったが、それでも注げるだけの愛を俺に注いでくれた。
今でも時折あのころの事を思い出す。
しかしながら俺の母さんは、ダンジョンが出現してから同じ皇位の継承権を持つ、つまりは俺の叔母や叔父たちと対立してしまったらしい。
対立した内容は魔力技術の急速な発展の為に、非人道的な実験を認めるか認めないかっていう物だったとの事だ。
その結果、俺たちは幸せな日常を失ってしまった。
両親は暗殺され、事故として隠ぺいされた。
まあ、直接見たわけじゃないからよく分からないけどね。
でも俺は幼いながらに思った。
誰かと対立したり、目立ったりするから両親は死んだんだ、と。
だから俺は電槌から身を隠し、正体を隠し、名前を変え、すべてを取り払った俺はこうして学校で平穏な生活を送っていたのである。
紅夜ユウ。
特に目立つ箇所もない凡庸な男子高校生。
俺の今の仮初の姿。
黒彗星。
裏でS級ハンターとして活動する男子高校生。
それも俺の今の仮初の姿。
本当の俺の名前は阿螺波コウ。
電槌の皇位の正統なる継承者。
それが、俺だ。
▽▲▽▲
自分にS級ハンターになれるほどの才能があるとは思ってもいなかった。
俺には、電槌の継承者として力がある。
そして戦闘の才能もある。
でも人が死ぬのは嫌だ。
目立つのも嫌だ。
うん、ならもう結論は一つだ。
「決めた、俺は暗躍する」
「……え、マジでやるんですか?」
「なんだよ、意外って目で見てきやがって。俺だってやるときはやる男だぞ?」
「へえ、マスターもついにやる気になったんですね」
「ああ、でも正体は明かさない」
「ふむふむ、ですがどうやって正体を明かさずにこの事態をおさめるつもりですか?」
「黒彗星=阿螺波コウっていう図式で進める」
この図式ならば紅夜ユウ、という俺の表の姿は維持される。
そして俺は平穏な日常を維持できる。
かつ黒彗星として存分に力を振るえる。
我ながら完璧な作戦だ。
「上手い事を考えましたね」
「だろ?だが、目下の課題は俺の姿が元の阿螺波コウとは似ても似つかぬことだ。電槌の人間は恐らく俺の事を継承者としては見ないだろう」
「確かにそうですね、どうやって証明するつもりですか?」
「うーん、それに関してはどうしようもないんだよな。まあ、電槌の人間に会ってみなければどうしようもない」
「そうですね。最初に会う人間は、仙場派の人間の方が良いかと思います」
「ああ、そうだな。そうすることにしよう」
と言う訳で俺は、仙場悠馬の父親に会うことにした。
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【あとがき】
ここまで本作をご拝読いただき、誠にありがとうございました。
先に結論から言ってしまいますが、今作はここで打ち切りにします。
ハイ、微妙なところで終わってるかもしれませんが、自分自身ここまでで納得のいかない出来上がりになってしまったので断腸の思い出こうして打ち切りさせて頂きます。
ですが、この物語の設定自体はかなり気に入っていますので新しくこちらの作品を踏襲して書き直したいと思います。
本当に申し訳ないとは思っています。
ですが、より面白い物を探求したいと思うのが、作者のエゴなのです……。
本当に、本当にすみません。
個人的にはプロットを見てみた感じ滅茶苦茶面白いと思いますので、こちらも読んでくださると嬉しいです。
元特S級冒険者であるTS美少女は暗躍するそうです
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818622172294010356
TS美少女なんですけど気づいたら暗躍してることにされてました~滅茶苦茶なことをしてるってよく言われるけど、俺は悪くないと思います~ カンパネラ @fannerudaisukiozisan
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