これから学校のふたり
今日も俺は鳩だ。
そして今、公園の時計台の屋根の上で、朝の光を浴びながらぼんやりしている。なぜかって?
それは、登校前に寄り道をする「これから学校のふたり」を見守るためだ。
午前7時20分。朝露の残る公園に、制服姿の女の子がふたり、並んで歩いてきた。
ひとりは、きっちりした真面目そうな子。時間を気にするようにスマホをチラチラ見ている。
もうひとりは、カーディガンを羽織り、首元もゆるゆるのマイペースな子。トーストをかじりながら、隣の子に話しかけている。
「ねえねえ、今日の朝礼、体育館だっけ?」
「……教室集合って言ったじゃん。昨日も言った」
「あれ〜? そだっけ〜?」
朝からテンションの差がすごい。
俺は首をかしげながら観察する。
「というか、なんでまた公園寄ってるの。時間ギリギリだよ」
「だってさ〜、ここ通ると気分良くなるんだもん。空、きれいだし」
真面目な子がちらりと空を見上げる。朝焼けが薄く残っていて、確かにきれいだった。
「……まぁ、たしかに、悪くはないけど」
「でしょ〜? それに……」
マイペースな子がふと、隣に顔を寄せた。
「一緒に学校行けるだけで、けっこう嬉しいんだけどな〜」
——はい、来ました。
真面目な子の耳が、見る見るうちに赤くなる。
「わ、わざわざ寄り道して言うことがそれ……!?」
「うるさい場所だと聞き逃すかもでしょ? ちゃんと伝えたかったし」
「も、もう……ほんと、朝から調子狂う」
そう言いながらも、真面目な子は嬉しさを隠せない様子で笑っている。
「じゃあ、明日も一緒に通学していい?」
「……好きにしなよ」
「うん、する」
——これは、尊い。
早朝の澄んだ空気の中で、確かにふたりの距離は少しずつ縮んでいる。制服の裾が触れ合うくらいの距離で、リズムを揃えながら歩いていくふたり。
俺はそっと翼をたたむ。
今日もまた、ひとつの百合を見守ることができた。
公園の鳩としての使命は、まだまだ続く——。
(つづく)
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