まだ見ぬ百合を求めて
今日も俺は鳩だ。
……でも、今日の公園は、少しだけ違って見える。
朝からベンチには誰もいない。噴水の音だけが響き、花壇のチューリップが風に揺れている。
しん、とした空気の中、俺はベンチの背もたれにとまりながら、静かに思い返していた。
この公園で、どれだけの百合を見守ってきただろう。
手をつなぐふたり。アイスを分け合うふたり。喧嘩して泣いて、仲直りするふたり。
朝、夕、雨の日も、深夜も——いろんな時間を、いろんな尊さを、この目で見てきた。
これは、尊い。
そう何度もつぶやきながら、俺は翼を動かし続けてきた。
でも、ふと思う。
この公園の外にも、百合はあるんじゃないか?
まだ見ぬ、知らない尊さが、どこかにあるんじゃないか?
俺はそっと空を見上げた。
雲ひとつない青空。広い、広い世界。
「……クルル」
鳩として生きる理由なんて、最初からわからなかった。
でも、百合を見守ることが、俺の心に羽をくれた。
ならば——。
次は、この空の下にある、まだ見ぬ百合を探しに行こう。
俺はベンチを離れ、翼を広げる。ふわりと風が吹き、地面が遠のいていく。
俺は旅に出る。
百合は、きっと、どこにでもある。
空の向こうで待っている尊さのかけらを見つけるために。
これは終わりじゃない。始まりだ。
百合を見守る鳩として。
百合を探す旅は、まだまだ続く——。
(完)
公園の鳩、百合を見守る さわじり @oshiriwosawaru
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