深夜のふたり
今日も俺は鳩だ。
……いや、今日はちょっと違う。
だって今、深夜の公園にいるのだから。鳩的にはとっくに寝てる時間だ。でも、どうしても気になって眠れなかった。なぜかって?
それは、こんな時間に、ベンチに並んで座るふたりの女の子を見つけてしまったからだ。
ひとりはパーカーのフードを深く被った、少し気怠げな子。
もうひとりは制服姿のまま、眠そうに肩を揺らしている子。
——おいおい、大丈夫か? 門限とか、あるやつじゃないのか?
俺は公園の時計台の上から、そっとふたりを見つめる。
「……眠い?」
「……ちょっと」
制服の子が、あくびを噛み殺しながら、パーカーの子の肩にもたれかかる。
「でも、来たかったんだもん……」
「こんな時間に?」
「だって……今日、話したいことがあったから」
パーカーの子が、少しだけ顔を傾ける。
「何を?」
「んー……言おうとしてたのに、忘れちゃった」
「それは、ない」
「あるのっ!」
——深夜テンションってやつか。でも、この空気、悪くない。
制服の子は、ぼんやりと夜空を見上げて言った。
「こうやって、静かな時間に、誰かと並んでるのって、なんかいいよね」
「……ふたりきりの時間ってこと?」
「うん。ふたりきりだから言えること、あるし」
パーカーの子が、少しだけ表情を変える。
「じゃあ……今、言う?」
「……え?」
「忘れてないなら、言ってみなよ」
制服の子が、顔を赤らめながら黙り込む。しばらく沈黙が続いたあと、小さな声でぽつり。
「……ほんとはね、今日、好きって言おうと思ってたの」
俺は羽を広げかけて、急いで閉じた。飛ぶわけにはいかない。これは目撃しなきゃダメなやつだ。
「ふふ、ようやく言った」
「えっ……?」
「言ってくれるの、待ってたよ」
パーカーの子が、ゆっくりと彼女の手を握る。
制服の子の目が潤む。
「……え? うそ、なんで……」
「私のほうが、先に好きになってたから」
——ああ、これは。
真夜中の静寂に包まれながら、そっと寄り添うふたりのシルエットが、美しく浮かび上がっていた。
俺はそっと翼をたたむ。
今日もまた、ひとつの百合を見守ることができた。
公園の鳩としての使命は、まだまだ続く——。
(つづく)
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