日陰で語らうふたり
今日も俺は鳩だ。
いや、もう驚かない。昨日、目が覚めたら公園の鳩になっていたが、もう受け入れた。
なぜかって? それは、百合を見守るという神聖な使命を見出したからだ。
そんなわけで、今日も公園のベンチの背もたれにとまっていた。
太陽が高くなり、だんだんと暑くなってきた昼前。人気の少ない木陰のベンチに、ひと組の女の子たちがやってきた。
ひとりは、少しボーイッシュな雰囲気のショートカットの子。もうひとりは、眼鏡をかけた、ちょっと大人びた雰囲気の子。
ふたりは並んで座ると、どちらからともなく、ふぅ……と小さく息をついた。
「暑いね」
「うん。でも、ここは涼しい」
どうやら、ふたりとも部活帰りらしい。手にはスポーツドリンクとタオル。ボーイッシュな子は汗を拭いながら、照れくさそうに笑った。
「それにしてもさ、今日の試合……私、全然ダメだった」
「そんなことないよ。最後のプレー、すごく良かった」
「でも、結局負けちゃったし……」
不機嫌そうに飲み物をひと口飲む彼女に、眼鏡の子はクスッと笑う。
「あなたは、いつも頑張ってる。それだけで十分すごいことだよ」
「……そっかなぁ」
「それに、私はそんなあなたを見てるのが好き」
——これは、尊い。
俺は鳩のくせに、心の奥がじんわりと温かくなった。
こういうのがいいんだよ……!
落ち込む彼女に、何の見返りも求めず寄り添う彼女。このシンプルで強い関係性、百合の本質がここにある。
しばらく無言のまま、彼女たちは穏やかに風を感じていた。
やがて、ボーイッシュな子がふっと笑う。
「なんかさ、落ち込んでたのバカみたいに思えてきた」
「ふふ、よかった」
「……ありがと」
そう呟いて、彼女は小さくつないだ指を、ぎゅっと強く握り直した。
……クルル。俺はそっと、翼をたたむ。
今日もまた、ひとつの百合を見守ることができた。
俺の公園の鳩としての使命は、まだまだ続く——。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます