アイスを分け合うふたり

 今日も俺は鳩だ。


 いや、もうこの公園の鳩としての生き方にすっかり馴染んでしまった。最初は「なんで俺が鳩に?」とか考えたけど、今はもう気にしていない。


 なぜなら、俺には百合を見守るという使命があるからだ。


 そんなわけで、今日も公園のベンチの背もたれにとまっている。夏の日差しが強くなり始めた昼下がり、俺は視界の隅にコンビニ袋をぶら下げたふたりの女の子を捉えた。


 ひとりは、Tシャツとジーンズのラフな格好をしたボーイッシュな子。もうひとりは、ふんわりとしたスカートを履いた、柔らかい雰囲気の子。


「暑すぎて、アイス買っちゃった」

「ふふ、私も」


 ふたりはベンチに腰を下ろし、コンビニ袋の中からアイスを取り出す。ボーイッシュな子はチョコモナカ、柔らかい雰囲気の子はフルーツバーだ。


「えー、そっちも美味しそう」

「じゃあ、一口食べる?」


 彼女は自然に、自分のアイスを相手の口元へ差し出す。ボーイッシュな子は少し驚いた顔をしたが、照れくさそうにしながら、一口かじった。


「……ん、冷たっ。でも美味しい」

「でしょ? じゃあ、私もそっち食べてみたい」

「えっ……まあ、いいけど」


 そう言いながらも、ボーイッシュな子は自分のアイスを差し出す。柔らかい雰囲気の子は、そっとそれを受け取り、小さくかじった。


 ——これは、尊い。


 お互いのアイスを交換し合うだけなのに、なんなんだこの甘い空気は。もう完全に恋人のそれじゃないか。


「こっちも美味しいね」

「まあな。でも、やっぱりそっちのほうが好きかも」

「ふふ、じゃあ、もう一口食べる?」

「え、いや、そんな何回も……」

「いいよ、食べて?」


 ——もう付き合えよ。


 俺は思わず、羽をばたつかせてしまった。ふたりはその音に気づき、俺のほうを見た。


「あ、鳩さん」

「なんか、ずっとこっち見てたね」

「見守られてるのかな?」


 俺はただの鳩だ。何も言えないし、何もできない。でも、ふたりのこの尊い時間を見届けることはできる。


 ふたりは楽しそうに笑いながら、アイスを食べ終え、公園を後にした。


 俺はそっと目を細め、静かに翼をたたむ。


 今日もまた、ひとつの百合を見守ることができた。


 俺の公園の鳩としての使命は、まだまだ続く——。


(つづく)

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