公園の鳩、百合を見守る

さわじり

幸せなふたり

 朝、目を覚ますと、俺は鳩だった。


 いや、正確には、目を覚ます前の記憶がない。昨夜、布団に入った覚えはあるし、いつものようにスマホで動画を漁っていた気もする。しかし、気がつくと俺はここ——公園のベンチの背もたれにとまっていた。


 「……クルッ?」


 なんだ、この声は。喉の奥から勝手に漏れた鳴き声に、自分で驚く。いやいや、そんな馬鹿な。俺は普通の社会人だったはず……いや、昨日は休みだったか? そもそも、俺は何者だった?


 わからない。思い出せない。でも、目の前に広がるのは見慣れた景色だ。


 静かな朝の公園。太陽の光が芝生に降り注ぎ、心地よい風が木々を揺らしている。遠くで犬の散歩をしている人が見えるし、ランニング中の人もいる。


 ……そして、俺の視界の片隅には、ふたりの女の子が寄り添いながら歩いている。


 鳩の本能か、それとも元々の俺の嗜好か——何かがビビッと反応する。


 ひとりはショートカットで、ジャージ姿。もうひとりはロングヘアで、フリルのついたワンピースを着ている。対照的な雰囲気のふたりだが、肩を寄せ合いながら何か楽しそうに話している。


 「ねえ、今日の朝ごはん、おいしかった?」

 「うん、すごく。君が作ってくれたの、全部おいしい」

 「よかった……でも、もっと上手になりたいな。あなたに、毎日おいしいって言ってもらいたいから」

 「もう十分すぎるよ。私、本当に幸せ」


 ——これは、尊い。


 思わず、翼を震わせてしまった。これが百合……朝っぱらからこんなに尊い光景を見せつけられるなんて、公園の鳩も楽じゃない。いや、最高か?


 彼女たちはゆっくりとベンチに腰を下ろし、お互いの手をそっと握り合う。その指の絡ませ方があまりに自然で、俺の鳩としての心(?)が揺さぶられる。


 「……クルル」


 気づけば、俺はベンチの近くに歩み寄っていた。いや、飛び寄っていた。普段なら人間に警戒される距離だが、彼女たちは俺を見て、ふわりと微笑んだ。


 「この鳩、かわいいね」

 「うん。なんだか、見守られてるみたい」


 俺はただの公園の鳩だ。でも、もし、この姿になった理由があるとしたら——それは、この公園の百合カップルを見守るためではないか?


 そうだ、俺はこれから公園の鳩として生きる。百合を見守るために。


(つづく)

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