第7話

少し離れた所で、月夜に晒されているスペース。

いわゆるバルコニーのような場所。

ここからだと月がよく見える。

「月が綺麗わね。」

俺の後ろから声を掛けるのはお嬢様だった。

「お嬢様。どうしたんですか?お友達とは大丈夫なのですか?」

「あの後、色々あって今は別行動。貴方こそ、どうしたのかしら?こんな所で一休みして。」

俺は本当に大丈夫なのか不安になったが、とりあえずはお嬢様に笑顔を向けて、答える。

「なんとなくですよ。」

「そう。なんとなくね…」

沈黙が流れた。

「そういえば、貴方、今日はいつもの赤い宝石をしていないようだけど、どうしたのかしら?」

「え?ああ。今日はあれは置いてきました。」

「そうなのね。そういえばあまり聞いてなかったけど、あれって大事そうにいつも持っているけど…あれは貴方にとってどういうものなのかしら?」

「あれはですね…あれは、母の形です。」

「お母様の?」

俺は頷く。

赤く輝く宝石。

あれは母が息絶える数秒前に貰ったものだ。

「あれは私の一族に伝わる宝石で、母からの話ではお守りのような存在らしいですよ。あれは所有者の1番愛している人に渡すのがお決まりなんです。」

俺は生まれてから全く母に愛されなかった。

あの瞬間まではそう思っていた。

殺しの厳しい訓練をする日々で、厳しい母しか見ていないからだ。

でも、最後の、あの月夜の輝く日。

母は俺にあの宝石をくれた。

母の最後の言葉である「愛してる」とともに与えてくれた。


私はその話を聞くと、あの赤い宝石にはそんな大事な意味があったのね。と驚かされた。

「じゃあ、貴方にとってあれはとても大事なものなのね。」

私は言うと、隆一は静かに頷いた。

そして、沈黙が流れた。

私と隆一の二人だけの沈黙。

気まずいこともなく、何故か私は心地良い沈黙だった。

そして、私はふぅ…と深呼吸をする。

「その…さっきはありがとう…私を守ってくれて…」

私は隆一を見ながら言おうと思ったけど、そっぽを向いてしまう。

「私はお嬢様を守るボディーガードなので、普通ですよ。」

隆一は優しい声で言った。

「そう…そう…ね。」

「どうしましたか?」

隆一は私の顔を見ながら言った。

私は、少し離れる。

そして、あの言葉を、決意したあの話を切り出す。

「それで…私の事をこれからも、一生守ってもらいたいわ…一生ずっとそばに居て欲しいし、一生ずっと一緒に居て欲しい。だから、その…私とけっこ__」

「ごめんなさい。それは出来ません。」

全ての言葉を言い切る前に、彼は言った。

「え?」

な、なんで…なんで…

「私と…永遠に一緒に…」

「ごめんなさい…私もそうしたいのはやまやまなんですが、ボディーガードというのは、身体を張ってご主人様を守る仕事…つまり、いつかは死んでしまうかもしれません…なので、私なんかよりも、普通の人と結婚してほしいです。」

「いやだ…いやだ!いやだ!いやだ!隆一以外で、私を幸せになんてできないわよ…毎日貴方と暮らしたい…また私を制限するつもりなの!?」

私は拳を強く握って、隆一に本音を告げる。

好きなのに一緒に居られないなんて、残酷過ぎる。

「ですが___」

ドォォオオォォォオオオォォォン!!!!!!!




「だ、大丈夫ですか?お嬢様。」

俺は優しく微笑むと、噴水で濡れた髪を払う。

お嬢様のドレスも濡れており、お嬢様は俺に抱きつくと、手を震わせた。

「こ、これ何よ…」

煙を上げて燃える白い館。

先程まで、俺達が中で踊っていた館の一部が崩れ落ちる。

周囲にはガラス片が飛び散っている。

どうやら、中に爆弾のようなものが設置されていたらしい。

館の中を見ると、強力な爆弾だったのか、人一人として悲鳴が聞こえない。

気を失っている…?

お嬢様のお友達も…まさか…!!!!

俺は噴水の水から出る。

とりあえずはここからの避難…

あと鈴木さんに連絡をして、車の手配…

俺も動向しないと…

パアン!!!!!

と、次の瞬間、銃声が聞こえ、俺は胸元にあった拳銃から銃弾を放った。

銃弾は、空中で俺に向かう銃弾とぶつかり合い、お嬢様から少し離れた場所に当たった。

「おやおや。ラングレー社は本当にお強いボディーガードがいるんですね。」

コツンコツンと、ブーツを鳴らしながら銃を構える俺と同じくらいの背丈の男。

しかし、すこし老けている。

俺は手を伸ばしてお嬢様を守る姿勢をとり、お嬢様は俺の後ろへと隠れる。

俺は拳銃を前に向ける。

「誰だ」

「誰って…そりゃあ、アズリア・ラングレーを狙う暗殺者だよ。」

男は言うと、拳銃を構えた。

そして、その拳銃を放つ。

俺は同時に銃弾を放ち、相手の銃弾の起動をズラす。

周囲に跳ね返りそうな材質はない…

相手はすぐに石の柱の後ろへと隠れる。

俺は銃を構えてその石の柱へと撃ち込む。

どうやら、銃弾は貫通しないみたいだ。

俺は後ろにいるお嬢様をお姫様抱っこすると、すぐさま、庭の木に飛び乗る。

「ひぃ!?」

「お嬢様!!!!申し訳ありませんが我慢してください!!!!!」

俺は、言うと、お嬢様が俺の胸元を握る。

震える手でしっかりと握る。

入口へと戻ると、そこには人集りと鈴木さんの姿。

鈴木さんは、俺に気づくと、「おい!!!隆一さん!!!!」と、手を降った。

「す、鈴木さん!!!!」

「大丈夫ですか!?お嬢様!!!!!」

お嬢様はコクリと涙目で頷く。

俺はお嬢様を車の中に座らせる。

「うっ…うぐ…!!!」

俺はお嬢様を座らせると、お嬢様は涙目になる。

そして、俺の手を握った。

「りゅ、隆一…行っちゃうの…?」

鳴きそうな声で呼び止めるお嬢様の声。

俺はそのお嬢様の手を振り払えるわけもなく、硬直する。

「離れちゃうの…?私から…」

俺は車の中にいるお嬢様の方へと振り返る。

そして、頭を指先で掻く。

俺はお嬢様の頭を撫でた。

「結局…貴方は私のこと、守護対象としか思ってないのね…」

小さくて、髪が綺麗で、笑ってる姿が可愛いお嬢様。

俺はそんなお嬢様に向かってもう一度微笑む。

「それじゃあ、行ってきます。」

俺は言うと、お嬢様は「絶対帰ってきてね…」と呟く。

「わかりました。できるだけ、頑張ってみます。」

そしてお嬢様は、コクリと頷いた。

「鈴木さん。お嬢様を連れて逃げてください。」

「で、ですが、隆一さんは!?」

「僕は、追手を全て排除してきます。」

言うと俺は入口へと向かった。

「りゅ、隆一さん!!!!ッ!!!!お嬢様!!!車を出しますよ!!!」

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