第5話

「ふわぁ…はぁ…よく寝たわね…」

私はベットの毛布を退かして起き上がると、朝日が降り注ぐ窓に目を向けた。

今日も穏やかな朝だった。

「あ、お嬢様、お目覚めになられたのですね!」

と、その時、ベットの中から聞いたことのある声がした。

「貴方ねぇ…毎回毎回私のベットで寝ないで…ってうわああああああ?!?!?!?!」

と、私がベットの毛布をめくったその時、そこには半裸状態の隆一がいた。

安心してもらいたいのは、半裸(上半身)ということ。

でも、その、あの、えっと、その、腹筋がバキバキすぎて私には少しだけだけど、刺激が強い…

「あ、貴方!!!な、なんで裸なの!?」

私は目を背けて顔を手で覆う。

「あ、これは普通にお嬢様を肌で感じたいと思い、下半身はさすがにまずいと思ったんで上半身だけにした次第です。」

「わ、わかったから…その、ふ、服を着なさいよ!!!!!だ、だらしないわ!!!!!!」

と、私は目を隠しながらも、その指摘をし、今度は服を着た隆一。

タキシード姿の隆一の胸元にはいつも通りの赤い宝石が輝いていた。

私は服を着た隆一と大広間に向かうと、そこには、大きな長いテーブルと、朝食。

私は椅子に座ると、さっそく両サイドに置いてあったフォークとナイフを持ち、朝食を食べる。

「それでは、本日の予定ですが…」

隆一がそう言いながら手元のクリップボードに挟まれた紙を捲る。

そして、私は朝食を口の中に運ぶ。

「えっと…これですね。そうです!今日はパーティーをしますよ!!!」

テンションが少し上り気味に隆一は告げた。

「パーティー…?」

「そうです!!パーティーです!」

私は「あぁ…パーティーね…それだけ?」と聞くと、隆一は笑顔で頷き、「それだけです!!」と答えた。


数分後、鏡の前に立っていた私。

メイド達に無理やりと行っていい形式で着せられた白いドレス。

すぐに汚れやすそうで、そして何より動きづらい。まあ、可愛いとは思うんだけど…

「ねぇ…これでその…パーティーとやらをするのかしら…?」

私はすぐ後ろに居たメイド長の鈴木に聞く。

鈴木は私の幼少期から見守ってくれていた存在で、23歳という若さにして、ラングレー家のメイドを全て統括する権限を持っている。

そんな鈴木がは、少しだけ機嫌が悪そうに「ええ。」と頷く。そして。

「お嬢様にはちゃんと正装をしてらわないとですから。それと、今回はパーティーというよりは、異業種交流会です。隆一さんにお聞きになられなかったのですか…?」

「いや…隆一はパーティーと言っていたけども…」

鈴木は隆一に呆れるように、「あの方は…」と言いながら頭を抱えた。

「良いですか?お嬢様は異業種交流会も初めてでしょうから、お説明いたしますね。」

「あ…うん…頼むわ…」

「異業種交流会というのはですね、他の企業の偉い人などと交流を深める会なのですが、お嬢様は他企業から狙われている身です。なので、お嬢様、少し失礼しますね。」

「ひゃ!?」

背中にゴソゴソと、触られる感覚がすると、すこしくすぐったい感触を受けながらも、鈴木はナイフのようなものを取り出した。

「この護身用のナイフが背中にあったり、あとは、スカートの中に2発式の拳銃があったりと、色々な所に武器が備わっているので、いざという時にご活用ください。」

と、鈴木は、またもや、私の背中をゴソゴソと、触った後、一例会釈をして、部屋から出た。

「なんだか…そんなに私が狙われているとは思ってもいなかったわね…」

「ま、お嬢様は可愛いですからね〜仕方が無いですよ〜」

「も、もう褒めるのがって!!!!な、なんで隆一がここに居るのよ!!!!!」

ここはドレスに着替えるための更衣室であって、男が勝手に入って良い場所ではない!!!!

「はやくお嬢様のドレス姿が見たくて入ってきてしまいました!それよりも、お嬢様はお美しいですね!!!!元が良いので更に更に更に良くなってしまっては…って、あれ?お嬢様…顔が赤いですよ?」

「え!?な、なんでかしら!?!?」

「あ、もしかして照れてます?」

「て、照れてなんか居ないわよ!!!!!」

鏡を見る。

絵の具かと見間違えるような程にまで赤く染まった顔。

そりゃ一瞬でバレるわよ…

「そういえば、その…隆一は参加するのかしら?」

「私…ですか?たぶん、参加すると思います。そうだ、今日はパーティーの中でダンスをしたりするそうですよ!踊り方とかって知ってますか?」

「お、踊り方…って、あれ?社交ダンスって奴かしら?」

隆一は頷く。

「社交ダンス程度ならわかるわよ!!別に」

「そうなのですね!でも、お嬢様は、社交ダンスは全て断ったほうが良いかと思います。社交ダンスで暗殺…なんてこともあるかもしれないので…」

「あ、あら…そう…なのね…たしかに…」

ダンスを踊れるということに、すこしだけ、少しだけ、ワクワクしてしまったおかげで「できない」と言われ、私は少しだけげんなりする。


頭に思い描く。

幼少期に父と母と見た映画。

その中でドレスに身を包んで踊る姿。

白のドレスと黒のタキシードがひらりひらりと舞う。

優雅で美しくて綺麗で、私もいつか、あんな風な格好であんな風に踊ってみたいと思っていた時があった。

「本当に…駄目なのかしら…私って…できないことが多すぎると思うんだけど…せめてダンスを踊るくらいはしたいわ…」

「ですが…命の危機もあるので…」

「いつも…いつもそればっかり…私が危ないからって何もしてくれない…そんなの…つまんないわ…」

私は、小さく言うと、更衣室から出た。

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